国内クラウドネイティブ開発者が約100万人規模に、Kubernetes採用率は27%にとどまるCNCF調査

概要 Cloud Native Computing Foundation(CNCF)とIT分野専門の調査会社SlashDataは、日本国内のクラウドネイティブ開発者コミュニティが約100万人規模に達したとする調査結果を発表した。両者は2025年12月から2026年1月にかけて、95カ国から1万2500件以上の回答を集めて調査を実施し、世界全体のクラウドネイティブ開発者数は約1990万人、うち日本は約95万人(CNCFの発表ベースでは約100万人)と推計されている。日本市場の規模の大きさが改めて示された形だ。 日本市場の技術動向 調査からは、日本のクラウドネイティブ環境が海外と異なる成熟パターンをたどっていることも浮き彫りになった。海外ではオンプレミス、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドの採用率がいずれも30%台とほぼ拮抗しているのに対し、日本は依然としてオンプレミスへの依存が強い。過去12カ月の技術導入率を見ると、APIゲートウェイが47%、マイクロサービスが39%である一方、Kubernetesは27%にとどまっている。 CNCFはこのKubernetes採用率の低さについて、開発者がKubernetes以外の環境でマイクロサービスをデプロイしている可能性や、プラットフォームエンジニアリングの成熟が進んだ結果、Kubernetesが抽象化され開発者から見えにくくなっている可能性を指摘している。単純な「Kubernetes離れ」ではなく、活用の仕方が変化していると分析している点が興味深い。 成熟度モデルと今後の展望 調査ではクラウドネイティブの成熟度を3段階に整理している。まず「基礎」段階はKubernetesとマイクロサービスの組み合わせ、次の「主流」段階では可観測性ツールやストリーミング/メッセージング、イベント駆動型アーキテクチャが導入される。そして「高度な実践手法」の段階では、不変インフラやカオスエンジニアリング、サービスメッシュといった技術が用いられる。中でも「フィーチャーフラグ」は、主流段階から高度な段階への移行を後押しする重要な役割を果たしていると分析されている。 日本市場はオンプレミス依存やKubernetes採用率の低さから、海外に比べて成熟度モデルの初期段階にとどまる開発者が多いと見られる。一方で開発者人口自体は世界有数の規模を誇っており、今後プラットフォームエンジニアリングや可観測性ツールの普及が進むことで、成熟度の底上げが進むかが注目される。

August 3, 2026

NOAA、気象予測の自前スーパーコンピュータを全廃しGoogle Cloudへ全面移行

概要 米海洋大気庁(NOAA)は、自前のHPE Cray製スーパーコンピュータによる気象予測業務を廃止し、2027年12月までにGoogle Cloudへ全面移行すると発表した。これにより同庁は、商用クラウド基盤上で完全に運用される初の国家気象予測センターとなる。移行対象は「Weather and Climate Operational Supercomputing System」で、現在General Dynamicsが管理するDogwoodおよびCactusという2台のHPE Cray製スーパーコンピュータ(合計で約14ペタフロップスの演算能力)が置き換えられる。NOAAは「クラウドベースの高性能計算(HPC)により、オンプレミスシステムが抱えていた従来のボトルネックを解消し、研究成果を実運用へ移すプロセスを加速できる」と説明しており、台風シーズンなど悪天候が集中する時期に計算資源を柔軟に増強し、平常時には縮小するといった弾力的な運用を目指す狙いがある。 技術的な詳細 Googleは、AMD EPYCプロセッサをベースとした新しい仮想マシン「H4D」をNOAA向けに展開する計画だ。H4DはハイパーバイザーによってGoogleのネットワーキングおよびオーケストレーション技術と統合されており、仮想化環境でありながらスーパーコンピュータ級の並列処理性能を実現するとしている。運用面では、クラスタ展開用の「Cluster Toolkit」、保守管理用の「Cluster Director」、ジョブスケジューリング用の「Batch」といったGoogle Cloudのツール群が活用される見込みだ。料金体系については、長期契約なしでコア時間あたり最低3セントからという価格設定が示されている。またAIの活用面では、NOAAはGoogle DeepMindの技術へのアクセスも得ることになり、AIを用いたグローバル予報システム(AI Global Forecast System)の開発に役立てる方針だ。 背景と今後の見通し 政府機関が気象予測という国家の安全保障やインフラに直結する重要業務をクラウドへ全面移行する動きは、世界的に見ても先駆的な事例となる。同様の流れとして、英国気象庁(Met Office)もMicrosoft Azureへの移行を進めており、各国の気象機関が自前のスーパーコンピュータ運用から商用クラウドへとシフトする傾向がうかがえる。NOAAにとっては、老朽化しがちなオンプレミス設備の維持コストや調達サイクルの制約から脱却し、需要に応じた俊敏なスケーリングとAI技術への迅速なアクセスを両立させることが狙いとみられる。2027年12月の完全移行に向けて、今後は既存モデルのクラウド環境への移植や、DeepMindの技術を組み込んだ次世代予報システムの開発状況が注目される。

August 2, 2026

Cloudflare、オリジンサーバーとの通信でポスト量子認証に対応 2029年の完全移行へ第一歩

概要 Cloudflareは、顧客のオリジンサーバーへの接続においてポスト量子認証に対応したと発表した。対応するのはAuthenticated Origin Pulls(AOP)とCustom Origin Trust Store(COTS)の2機能で、いずれもModule-Lattice-Based Digital Signature Algorithm(ML-DSA、FIPS 204準拠)の証明書をサポートする。これにより、CloudflareとオリジンサーバーとのEnd-to-Endでの量子耐性を持つ相互認証が可能になった。同社は今回の対応を、2029年までに完全なポスト量子セキュリティを達成するための最初のマイルストーンと位置づけている。 なぜ認証の量子耐性化が急がれるのか これまで量子コンピュータに関する脅威対策は、暗号化通信の保護、すなわち「Harvest Now, Decrypt Later(今収集し、将来復号する)」攻撃への対抗が中心だった。攻撃者が現在のうちに暗号化データを収集・蓄積しておき、将来量子コンピュータが実用化された時点で復号するというシナリオである。しかし記事では、量子コンピューティングと関連分析の最近の進展により、業界全体および米国政府がポスト量子暗号への移行期限を前倒ししていることを指摘し、暗号化と並んで「認証」、つまりなりすまし防止の重要性が急速に高まっているとしている。認証が量子攻撃で破られれば、通信相手の正当性そのものが保証できなくなるため、Cloudflareはこの対応を優先事項として進めてきた。 技術的な詳細 対応するML-DSAはNIST標準のFIPS 204に準拠する署名アルゴリズムで、ML-DSA-44、ML-DSA-65、ML-DSA-87の3つのパラメータセットをサポートする。中でもML-DSA-44はパフォーマンスに優れ、NIST category 2のセキュリティ強度を実現するとして推奨されている。 AOPはCloudflareがオリジンサーバーに対してクライアント証明書を提示し、相互TLS(mTLS)接続を確立する仕組みで、オリジン側はCloudflareからのリクエストのみを許可できるようになる。一方COTSは、Cloudflareが信頼するCA(認証局)を顧客側で制御できる機能で、デフォルトの公開信頼ストアの代わりにカスタムCAを利用し、オリジンサーバーがML-DSA証明書をチェーンできるようにするものだ。 導入にはOpenSSL 3.5.0以上を用いてFIPS 204シード形式のML-DSA秘密鍵を生成し、オリジンサーバー用・AOP用それぞれの証明書チェーンを作成した上で、生成したオリジンCA証明書をCloudflare API経由でCOTSにアップロード、クライアント証明書と秘密鍵をAOPとしてゾーンまたはホスト名単位で有効化する手順を踏む。ダウングレード攻撃を防ぐため、検証側は量子脆弱性のある認証メカニズムへの信頼を明示的に削除する必要があり、設定ガイドで詳細な検証手順(ML-DSA証明書の提示確認、クライアント証明書なし接続の拒否確認、鍵合意パラメータの確認など)も案内されている。 実装の裏側と発生した障害 内部実装では、制御平面(Go言語製サービス)でGo標準ライブラリがML-DSAに未対応だったため、Cloudflare独自のCIRCL暗号ライブラリを拡張して対応した。Go 1.27では標準サポートが予定されている。データ平面ではBoringSSLを使用するPingora Originサービスを通じて実装しており、4年間延期していたBoringSSLの更新を、2026年4月にBoringSSL側がポスト量子認証をサポートしたタイミングで実施したという。 なお、KeyUsage検証の厳格化に伴い一部顧客の証明書が無効と判定される問題が発生し、2026年6月10日にインシデントとなった。Cloudflareは一旦ロールバックした上でパッチを適用し、問題を解決している。 今後の展望 Cloudflareは今回のオリジン向け対応に続き、来訪者(エンドユーザー)とCloudflare間の接続についてもGoogleおよびIETF(Internet Engineering Task Force)と協力してMerkle Tree Certificates(MTC)の開発・実験を進めており、初期展開は2027年を目標としているという。また、ML-DSA対応がTLSライブラリ全体に普及するのに合わせてシステムを継続的にアップグレードするほか、Go 1.27のネイティブML-DSAサポートやCloudflare Tunnelなど他のソリューションへの展開も予定しており、2029年の完全なポスト量子セキュリティ達成に向けた取り組みが段階的に進む見通しだ。

August 2, 2026

VMware vCenter/ESXiに認証バイパスとVMエスケープの重大脆弱性、Broadcomが緊急パッチを公開

概要 Broadcomは7月29日、VMware vCenterとESXiに存在する複数の脆弱性を修正するセキュリティアップデートを公開した。中でも深刻なのは、vCenterのVMware Directory Serviceにおける認証バイパスの脆弱性(CVE-2026-59309)と、vCenterのSyslogサーバーに存在するディレクトリトラバーサルの脆弱性(CVE-2026-59310)で、いずれもCVSSスコアは最高水準の9.8。ネットワークにアクセスできれば認証情報なしに悪用可能で、前者は管理基盤への不正アクセスを、後者は任意のコード実行を招く。あわせて、ESXiのVMXNET3仮想ネットワークアダプタに境界外書き込みの欠陥(CVE-2026-47876、CVSS 9.3)も見つかっており、VM内で管理者権限を持つ攻撃者がホスト側であるESXiに対してコードを実行する「VMエスケープ」を引き起こす恐れがある。Broadcomは現時点でこれらの脆弱性が実際に悪用された形跡はないとしているが、有効な回避策が存在しないため、パッチの適用を急ぐよう呼びかけている。 脆弱性の詳細 今回の一連の脆弱性のうち、特に警戒すべきは前述の3件のクリティカルな欠陥だ。CVE-2026-59309とCVE-2026-59310は、vCenter Server 8.0系、VMware Cloud Foundation/vSphere Foundation 9.0系・9.1系など、対象範囲が広く、いずれもネットワーク経由でアクセスできれば悪用できる点が危険性を高めている。CVE-2026-47876はVMXNET3アダプタを利用する仮想マシン内で管理者権限を握った攻撃者が、ハイパーバイザーであるESXiホスト自体でコードを実行できてしまうというもので、マルチテナント環境やクラウド基盤において特に深刻な影響を及ぼしうる。このほか、ESXiやWorkstation、Fusionに影響する境界外読み取りの脆弱性CVE-2026-41703(ESXiでCVSS 7.6、情報漏えいまたはサービス拒否)、ESXi管理者による操作を記録しないロギング不備のCVE-2026-41709(CVSS 2.7)も併せて修正されている。 対象バージョンと修正版 修正版は、vCenterがバージョン9.1.0.0300、9.0.2.0100、8.0 Update 3k、ESXiが9.1.0.0200、9.0.2.0100、8.0 Update 3k、Workstation/Fusionが26H1となっている。VMware Cloud Foundationやvサーバー Foundation、Telco向け製品も影響を受けるため、該当する管理者はBroadcomのセキュリティアドバイザリで自社環境のバージョンを確認する必要がある。Broadcomはこれらの問題をITILの分類でいう「緊急変更」に相当するとし、迅速な対応を強く推奨している。有効な回避策は用意されていないため、パッチ適用が唯一の対策となる。なお、vCenterへのパッチ適用時には管理インターフェースが一時的に利用できなくなるほか、ESXi側の更新にはサーバーの再起動が必要となる。ダウンタイムを抑えたい場合はESX Live Patchの利用が案内されている。また、VMware Cloud Foundation 9.x環境をvSphere 8.0/9.0上で運用している場合は、アップグレード時の互換性にも注意が必要だとされている。 今後の展望 VMware製品は仮想化基盤の中核を担うことが多く、過去にも脆弱性が公開直後から攻撃者に狙われるケースが繰り返し報告されてきた。今回のBroadcomのアドバイザリでも、脅威アクターがVMware製品の脆弱性を頻繁に悪用してきた経緯に言及されており、現時点で実際の悪用は確認されていないものの、パッチ未適用の環境が今後の標的になる可能性は高い。特に認証バイパスや直接のコード実行につながる欠陥は、公開情報をもとにした概念実証(PoC)コードが出回りやすく、悪用までの時間が短縮される傾向がある。vCenterやESXiを運用する組織は、休止期間を確保したうえで速やかにパッチを適用し、あわせてログの監視体制を強化することが求められる。

August 2, 2026

企業クラウド支出、2026年Q2は前年比43%増の1430億ドルに到達 AI需要が8年ぶりの高成長を牽引

概要 調査会社Synergy Researchが発表した最新データによると、2026年第2四半期の企業向けクラウドインフラ支出は前年同期比43%増となる1430億ドルに達した。これは過去8年間で最も速い成長率であり、過去12ヶ月間の累計市場規模はすでに5000億ドルを突破している。同社の最高分析官は、この加速的な成長の大部分を牽引しているのはAI需要であると指摘しており、生成AIブームがクラウドインフラ市場全体を押し上げる構図が改めて裏付けられた形だ。 市場シェアの構図 プロバイダー別に見ると、依然としてAmazon Web Services(AWS)が28%のシェアで首位を維持し、Microsoft Azureが20%、Google Cloudが15%で続く。上位3社の合計シェアは67%に達し、前年第3四半期時点の63%から上昇しており、大手ハイパースケーラーへの寡占化がさらに進んでいることがうかがえる。第2グループではOracleが4%、AI特化型クラウドとして注目されるCoreWeaveが2%のシェアを確保しており、ニッチプレイヤーも一定の存在感を示している。 AI特化サービスの急拡大 今回の成長を牽引した最大の要因は、AI特化型クラウドサービスの伸びだ。同分野は年間成長率165%という驚異的なペースで拡大しており、Synergy Researchの分析官も「AIが増分成長の大部分を占めている」と明言している。従来型のIaaS/PaaSに加えて、AIワークロード向けに最適化された専用インフラへの投資が、企業のクラウド支出全体を大きく押し上げている構図が浮き彫りになった。 地域別の動向 地域別では、依然として世界最大のクラウド市場である米国がQ2において49%という高い成長率を記録し、世界全体の伸びを大きく上回った。米国以外では、インド、インドネシア、アイルランド、タイ、マレーシアといった国々が世界平均を上回る成長率を示しており、AI需要とデータセンター投資の波が新興市場にも着実に広がりつつあることを示している。 今後の見通し AI需要を起点とするクラウドインフラ投資の拡大基調は当面続くとみられ、大手ハイパースケーラーによるデータセンター増強や専用AIインフラへの投資競争は今後も加速する可能性が高い。一方で、上位3社への寡占が一段と強まっていることは、価格競争や技術革新の観点から中小プロバイダーやAI特化型スタートアップにとって厳しい競争環境が続くことを示唆している。

August 1, 2026

Amazon、四半期売上高が初の2000億ドル突破 AWSは前年比37%増と2021年以来の高成長率

概要 Amazonが発表した2026年第2四半期決算で、全社売上高が四半期として初めて2000億ドルの大台を突破した。売上高は2006億ドルと前年同期の1677億ドルから20%増加し、営業利益も192億ドルから43%増の275億ドルに拡大した。牽引役となったのがクラウド部門のAWSで、売上高は422億ドルと前年比36.7%(発表では約37%)増加し、アナリスト予想の31%成長を大きく上回った。この伸び率は2021年以来最速で、AI需要の高まりがクラウド事業の成長を加速させた形だ。 AWSとAI・チップ事業の伸び AWSの四半期売上高422億ドルは、年換算の売上高(run rate)に換算すると1690億ドルに相当する。営業利益は前年の102億ドルから166億ドルへと拡大し、営業利益率は39.4%に達した。Andy Jassy社長兼CEOは決算発表の中でAWSの好調ぶりに言及し、特にAIおよびチップ関連事業がそれぞれ250億ドルを超える年換算売上高に達したことを強調した。生成AIブームによる企業のクラウドインフラ需要増加と、AmazonがAIワークロード向けに開発した独自チップ(Trainium系列)への引き合いが、AWSの成長率を押し上げた主な要因とみられる。 全社決算の内訳 AWS以外の事業も好調だった。広告事業の売上高は198億ドルと前年比26%増加し、Amazonの収益源としての存在感を高めている。地域別では北米セグメントが前年比16%増の1162億ドル、国際セグメントが同15%増の422億ドルとなり、いずれも二桁成長を維持した。全社の営業利益率も改善しており、AWSの高収益性が全体の利益拡大を下支えする構図が続いている。 今後の見通し Amazonは第3四半期の見通しとして、売上高1970億〜2020億ドル(前年比9〜12%増)、営業利益225億〜265億ドルを提示した。AWSの成長ペースが今後も維持されるかどうかは、AI関連需要の持続性や設備投資の効率性にかかっており、次四半期以降の決算でAI・チップ事業の年換算売上高がどこまで伸びるかが注目される。

August 1, 2026

Azure Cosmos DBに全テナント横断アクセス可能な脆弱性「CosmosEscape」、Wizが発見しMicrosoftが修正

概要 セキュリティ企業Wiz Researchは、Microsoft Azure Cosmos DBに存在した重大な脆弱性チェーン「CosmosEscape」を公表した。この脆弱性を悪用すると、標準的なAzureアカウントと攻撃者が自ら作成したCosmos DB Gremlinデータベースだけを足がかりに、プラットフォーム全体で通用する署名鍵(マスターキー)を奪取でき、テナント・リージョン・API種別(SQL、MongoDB、Cassandra、Gremlin)を問わず任意のCosmos DBアカウントに完全な読み書きアクセスが可能になっていた。特別な権限やインサイダーアクセスは不要で、攻撃者は数分でこの状態に到達できたという。Wizは2025年11月にMicrosoftへ報告し、Microsoftは48時間以内に緊急のホットフィックスを展開、2026年7月までに全リージョンで恒久的な修正を完了したと発表している。 技術的な詳細 脆弱性の起点はCosmos DBのGremlin API(グラフクエリ言語)にあった。Cosmos DBは一般的なJVMベースのGremlinスタックではなく、独自開発の.NETエンジンを用いてGremlinクエリを.NETコードに変換し、制限された環境で実行する仕組みを採用していた。Wizの研究者は、クエリ実行時に.NET特有の例外が発生することに気づき、グラフ処理エンジンのサンドボックスは歴史的に脆弱性が多いという知見をもとに調査を進めた結果、.NETのリフレクション機能に対する制限が不十分であることを発見した。これを悪用してファイルの読み書き機能を組み立て、最終的にはデータベースを実際にホストするDB Gateway(マルチテナントのサービスファブリック上で稼働)上での任意コード実行(RCE)にまで到達した。 DB Gateway上でのコード実行によって、攻撃者はプラットフォーム全体で通用する署名鍵と、リージョンごとに存在する「Config Store」へのアクセス権を手に入れた。Config Storeはアカウント名・サブスクリプションID・テナントID・ネットワーク設定などを保持するCosmos DB自身のディレクトリ機能であり、これ自体もCosmosDB SQLエンジンでクエリ可能だったため、奪取した署名鍵を使えば完全に閲覧・操作できた。攻撃者はConfig Storeを検索して標的組織のアカウントを特定し、そのプライマリキーを取得したうえで、証跡を消すために自ら作成した最初のデータベースとAzureアカウントを破棄し、公開エンドポイント経由で標的の任意のデータベースにアクセスするという手順を踏むことができた。プライベートアカウントやネットワーク分離されたアカウントであっても、DB Gatewayがその分離設定自体を強制する立場にあったため、書き込みアクセスがあれば分離設定を無効化することも可能だった。 影響範囲とMicrosoftの対応 Wizは実証の過程で、1つのテナントの1リージョンだけでも数千件のMicrosoft内部データベースが存在することを確認したという。Cosmos DBを利用するMicrosoft内部サービスにはMicrosoft Entra ID、Microsoft Teams、Microsoft Copilotなどが含まれており、これらが保持するTeamsのメッセージデータやCopilotのユーザー問い合わせ・会話履歴なども理論上はアクセス対象になり得た。ただし、報告時点で他の顧客データへの実際の不正アクセスがあったという記載はない。 Microsoftはアクセスログの広範な調査を実施し、Wizの研究者による検証活動以外に不正なアクティビティの証拠は見つからなかったとしており、顧客データへの実際のアクセスはなく、顧客側での対応も不要と説明している。対応としては、報告から48時間以内にGremlin APIの脆弱な侵入経路をブロックする緊急措置を実施し、その後サービス間認証の強化、ネットワーク保護の追加、監視・検知機能の拡張、そして問題の根本原因であったプラットフォーム全体共通のCosmos Master Key自体の廃止という、認証アーキテクチャの根本的な見直しを2026年7月までに全リージョンで完了させた。あわせて、同様の攻撃経路がないか広範なペネトレーションテストを実施し、追加の脆弱性は発見されなかったとしている。 今後の公開予定 CosmosEscapeの完全な攻撃チェーンの詳細は、2026年8月6日に開催されるBlack Hat USAのセッション(ブリーフィング)で発表される予定となっている。現時点の報道ではCVE識別子や深刻度スコアは明らかにされていないが、基盤となるデータベースサービスの脆弱性がその上に構築された複数のサービスへ連鎖的に波及し得るという、クラウドプラットフォームのマルチテナント設計に内在するリスクを改めて浮き彫りにする事例として注目されている。

August 1, 2026

MicrosoftのAzure、年間売上高が初めて1000億ドル突破 AI投資拡大で自由キャッシュフローは圧迫

概要 Microsoftは7月29日、2026会計年度第4四半期(4〜6月期)決算を発表した。四半期売上高は前年比18%増の900億ドルとなり、市場予想の877億ドルを上回った。GAAP純利益は358億ドル(1株当たり4.81ドル)で前年同期比31%増、調整後EPSは4.74ドルとアナリスト予想の4.24ドルを上回る好決算となった。最大の焦点はクラウド事業「Azure」で、四半期の成長率は前四半期の40%から43%へ加速し、通期のAzure売上高は前年比41%増となって初めて1000億ドルの大台を突破した。 Azureとクラウド事業の成長 Azureおよびその他クラウドサービスの成長率43%は、2022年初頭以来の高水準となる。Microsoft 365 Copilotの有料シート数も3000万件に達するなど、AI関連製品の商用展開が業績を押し上げている形だ。Nadella CEOは決算説明の中で、企業がAI活用の評価基準を「書かれたコードの行数」ではなく「実際のビジネス成果」に転換すべき時期に来ていると強調し、生成AIが試作段階から企業の実運用へと本格的に移行しつつあるとの見方を示した。 AI投資とキャッシュフローへの影響 好調な事業成長の裏で、AIインフラへの投資拡大がキャッシュフローに与える影響も鮮明になっている。第4四半期の設備投資(ファイナンスリース含む)は前年比69%増の410億ドルに達した。CFOのAmy Hoodは、データセンターやAI関連インフラへの需要が供給能力を上回る状態が続いていると説明している。営業キャッシュフローは30%増と堅調だったものの、大規模投資の影響で自由キャッシュフローは23%減少し、Microsoft Cloudの粗利率も65%へと低下した。 今後の見通し Microsoftは2026暦年の設備投資見通しについて、オフィスおよびデータセンター資産の耐用年数の想定を15年から25年に延長したことを理由に、従来の約1900億ドルから約1750億ドルへ下方修正した。Hood氏は、旺盛なAI需要に対応するための投資は継続する一方、2027会計年度を通じてフリーキャッシュフローのプラスを維持できるとの見通しを示した。記録的なAI投資が利益率やキャッシュフローに与える圧力と、Azureをはじめとするクラウド事業の力強い成長という二つの側面が今後も注目されることになりそうだ。

August 1, 2026

HashiCorp、Terraformに誤削除ワークスペース/スタックの復元機能とモノレポ対応を正式リリース

概要 HashiCorpは2026年7月23日、HCP TerraformおよびTerraform Enterpriseの新機能群を発表した。目玉は誤って削除したワークスペースやスタックを復元できる機能で、Standardプラン・Premiumプランのユーザーが対象となる。あわせて単一リポジトリで複数のスタックを管理できるモノレポ対応、ワークスペースからスタックへの移行を支援するCLIツールなども公開されており、いずれもプラットフォームチームの運用負荷とガバナンスリスクを軽減する狙いがある。大規模なインフラをTerraformで管理する組織にとって、実務上のかゆいところに手が届くアップデートといえる。 復元機能の詳細 削除されたワークスペースやスタックは即座に消えるのではなく、「回復可能アイテム」ページに移動し、削除後30日間保持される。この間であれば、実行履歴や最後に確認済みの状態(state)、変数やVCS接続などのワークスペース設定を含めて、管理者がワンクリックで元の状態に復元できる。従来はワークスペースを誤削除した場合、リソースを1つずつ手動で再インポートするなどの煩雑な復旧作業が必要だったが、この機能によりヒューマンエラーによる事故対応のコストが大幅に下がることになる。 モノレポ対応とCLI移行支援 モノレポ対応では、単一リポジトリ内の指定したサブディレクトリを起点にTerraformを実行できるようになり、複数のスタックが共通モジュールを共有する構成が組みやすくなった。あわせて、ファイルの変更パターンに基づくフィルタリング機能により、実際に関連するファイルが変更された場合のみplan/applyサイクルが走るようになり、無駄な実行を削減できる。また、ワークスペースからスタックへの移行を支援するCLIツールもパブリックベータとして公開された。モジュール式の「ツールボックス」アプローチを採用しており、ユーザーは移行の各段階を検証・制御しながら段階的に進められるほか、自動化やAIワークフローへの組み込みも可能になっている。 その他のアップデート このほか、プロジェクト単位でアーティファクトにタグを付けてプロジェクトレジストリビューで一元管理できる「レジストリタグ」、組織全体ではなくプロジェクトやワークスペース単位でポリシーの上書き権限を委譲できる機能もGAとして提供が始まった。これらの機能はいずれも、組織全体に強い権限を与えるのではなく、チーム単位で柔軟かつ安全に運用範囲を委譲できるようにする方向性を示しており、エンタープライズ規模でのTerraform運用における信頼性向上に寄与するとみられる。

July 30, 2026

KubeCon + CloudNativeCon Japan 2026開幕、GPUスケジューリングとOpenTelemetry卒業がAI時代のクラウドネイティブ基盤を象徴

概要 KubeCon + CloudNativeCon Japan 2026が横浜のPACIFICO Yokohamaで開幕した。前回開催がチケット完売となった人気を受けて2回目の開催となる今回は、「グローバルなAI経済に求められる信頼性とスケールを実現するため、クラウドネイティブスタックを標準化する」ことを主軸に据え、KubernetesのGPUスケジューリング機能の進化と、5月にCNCFグラデュエーション(卒業)を果たしたOpenTelemetryを軸とした可観測性強化が主要テーマとして取り上げられた。カンファレンスはAI + ML、Observability、Platform Engineering、Operations + Performance、Security、Cloud Native Noviceの6トラックで構成され、AI/MLトラックではGPU管理やワークロードオーケストレーション、AIエージェント支援に関するセッションが多数組まれている。 GPUスケジューリングの進化 Kubernetesのリソース管理は、AIワークロードの急増に対応する形で大きく前進している。Dynamic Resource Allocation(DRA)はKubernetes 1.34で正式にGA(一般提供)となり、続くKubernetes 1.36ではWorkload Aware SchedulingとDRAを組み合わせたネイティブGPUスケジューリング機能に加え、安定版となったきめ細かいKubelet認可(fine-grained Kubelet authorization)も導入される。会期中には、IBM ResearchとEricssonによる「Sustainability by Design: Leveraging DRA for Energy-Efficient Kubernetes Clusters」など、DRAを活用してGPUクラスタのエネルギー効率を高める具体的な取り組みを紹介するセッションも予定されており、GPUリソースの効率的な割り当てが持続可能性の観点からも重要な論点になっていることがうかがえる。 OpenTelemetryのCNCF卒業とエージェント可観測性 もう一つの大きな節目が、OpenTelemetryの5月のCNCFグラデュエーションである。この卒業を記念し、7月30日にはAppleのAlolita Sharma氏とGrafana LabsのTed Young氏による基調講演「OpenTelemetry Celebrates Graduation and the Next Era of Agentic Observability」が行われる。会期初日のコミュニティデー(7月28日)ではLayerXの大平氏(Yuzuru Ohira)が「Building AI Agent Observability with OpenTelemetry」と題したセッションを、主会議2日目にはGrafana LabsのNicole van der Hoeven氏が「The Great Doubt: What Building an AI Agent Taught Us About Trust」と題した講演をそれぞれ行う予定で、いずれもAIエージェントのふるまいや信頼性をどう可観測化するかがテーマとなっている。ベンダー中立な計装標準として成熟したOpenTelemetryが、GPUネイティブなクラウド基盤やAIエージェントの動作追跡といった新領域に適用範囲を広げつつある様子が、これらのセッション構成から見て取れる。 今後の展望 DRAのGA、OpenTelemetryのCNCF卒業、そしてAIエージェント向け認可を担うKeycloak-MCPの登場という3つの節目がほぼ同時期に重なったことは、クラウドネイティブ技術がAIワークロードを前提とした基盤へと本格的にシフトしていることを象徴している。GPUリソースの効率的なスケジューリングと、エージェントの挙動を含めた可観測性の両輪が整備されることで、企業がAIワークロードを本番環境で安定的に運用するための土台が今後さらに強化されていくとみられる。

July 29, 2026