AnthropicとMeta、最大100億ドル規模のコンピュート貸与で初期交渉 最大のライバル同士が異例の提携へ

概要 Meta PlatformsがAnthropicに対し、最大100億ドル規模のクラウド計算能力を2年間にわたって貸与する初期交渉を進めていると、2026年7月17日にNew York TimesおよびCNBCが報じた。AnthropicがChatGPTの競合であるClaudeを開発する一方、Metaも独自の大規模言語モデルLlamaを開発しており競合関係にある。もし合意に至れば、Metaが最大のAIライバルであるAnthropicにインフラを提供するという異例の構図が生まれることになり、AIインフラを巡る争奪戦の中でも屈指の大型契約として注目を集めている。交渉はまだ非常に初期段階にあり、最終的な契約に至る保証はない。両社はコメントを控えている。 交渉の背景 Anthropicは提案を6月に持ちかけ、現在Metaが検討している段階だという。背景にはAnthropic自身のクラウド能力不足があり、これによりClaudeの利用に上限が設けられるなど、最先端モデルへのアクセスに制約が生じていた。一方のMetaは、広告事業に依存した収益構造の多角化を図っており、2026年には最大1,450億ドルという巨額の資本支出を計画してAIインフラへの投資を進めている。すでにAWS出身の幹部Dave Brownを迎え入れるなど、CoreWeaveやNebiusといった新興クラウド企業と競合する形で独自のクラウド事業への参入を目指す動きを見せていた。CEOのMark Zuckerbergも2026年5月の株主総会で、クラウドコンピューティング事業への参入を検討していると述べていた。なおMetaは同時期に8,000人規模の人員削減も実施しており、経営資源の再配分を進めている最中でもある。 契約条件と交渉の難航点 報道によれば、合意に至った場合はAnthropicがMetaに対して月次で支払いを行う形になる見込みで、契約期間は2年間、両社とも契約を早期に打ち切ることが可能な柔軟な内容になるとみられる。ただし、契約条件は今後も変更される可能性があり、Metaにはこれまで計算能力を外部に販売してきた実績がないため、交渉が複雑化しているとも伝えられている。 なお、Anthropicが大手インフラ企業から大規模に計算能力を調達する動きはこれが初めてではない。2026年5月には、Elon Musk率いるSpaceXがAnthropicとの間で、月額12億5,000万ドル規模とされる契約を結び、テネシー州メンフィスにあるColossus 1データセンターの計算能力へのアクセスを提供している。SpaceXはAnthropicとGoogleの双方にGPUを販売しているとも報じられており、AI業界における計算資源の貸し借りが企業間の競合・協業の垣根を越えて広がっている実態がうかがえる。 業界への影響 今回の交渉が象徴するのは、AI業界における競争構図の急速な曖昧化だ。GoogleはMetaにGeminiモデルを提供しつつも供給量を制限しているとされ、SpaceXは複数のAI企業にGPUを供給するなど、各社は競合相手であっても不足する計算資源を融通し合う関係を築きつつある。慢性的な計算能力不足がAI業界全体を覆う中、モデル開発企業とインフラ企業という単純な二分法はもはや通用しなくなりつつあり、MetaとAnthropicの交渉はその最新かつ最大級の事例として今後の展開が注視される。

July 19, 2026

OpenAI初のハードウェアは「動くスクリーンレススピーカー」、家庭に住むAIコンパニオンを目指す

概要 OpenAIが開発中の初の自社ハードウェア製品は、画面を持たず、機械的な可動部によって自ら動くスマートスピーカーになるとBloombergが報じた。ChatGPTを物理的に体現する「家庭に住むAIコンパニオン」を目指して設計されており、単なる音声アシスタント端末ではなく、ユーザーの好みを時間をかけて学習し、パーソナライズとプロアクティブな提案を強化していく製品として位置づけられている。OpenAIは社内でこの端末を「AI時代のための新しい家庭用コンピュータ」と表現しているという。 技術的な詳細 報道によれば、このデバイスはカメラとセンサーを搭載し、周囲の状況や文脈を理解できる。充電式バッテリーを内蔵し、部屋から部屋へ持ち運べるポータブル設計となっている。最大の特徴は、単に据え置かれるのではなく機械的な可動部を備え、生きているかのような印象を与えるよう作り込まれている点だ。音声インターフェースには、聞き取りと発話を同時に行える「GPT-Live」ボイスモードが採用され、より自然な会話のやり取りを実現するとされる。機能面では、スマートホーム機器の操作、メディア再生、質問への回答、メッセージ管理に加え、ChatGPTのフル機能を利用できる見込みだ。またメールなど、ユーザーのデジタル生活データへのアクセスも想定されており、パーソナライズの深化に活用される。 開発体制と背景 開発チームには、iPhoneやMacの製品開発に携わった元Appleのエンジニアが加わっていると報じられている。OpenAIのチーフ・ハードウェア・オフィサーを務めるTang Tan氏は、かつてio Productsを共同創業し、Appleでは長年iPhoneのデザインを主導した人物だ。この経歴は、AppleがOpenAIおよびTang Tan氏らを営業秘密の窃盗で提訴している訴訟においても中心的な争点となっている。ハードウェアはまだ開発の途上にあり、正式な発表は2026年後半、発売は2027年になる見通しとされるが、Appleとの係争の行方次第ではスケジュールに影響が出る可能性も指摘されている。価格などその他の詳細は現時点で明らかになっていない。 今後の展望 ChatGPTを「画面の中のアシスタント」から「家庭内に存在する物理的なコンパニオン」へと拡張しようとするこの動きは、OpenAIが対話型AIをハードウェアという新たな接点に展開する重要な一歩となる。可動機構や生体的な演出を取り入れる設計思想は、従来のスマートスピーカー市場とは一線を画すものであり、AmazonのEchoやGoogleのNest Hubといった既存製品との差別化を図る狙いがうかがえる。一方で、Appleとの訴訟の帰趨や、2027年という発売時期の妥当性については不確定要素が多く、今後の続報が注目される。

July 19, 2026

Moonshot AI、2.8兆パラメータの「Kimi K3」を発表 史上最大のオープンソースモデルでOpus 4.8に対抗

概要 中国のスタートアップMoonshot AIは7月17日、新モデル「Kimi K3」を発表した。約2.8兆パラメータを持つMoE(Mixture of Experts)型のオープンウェイトモデルで、これまでで最大規模のオープンソースAIモデルとされる。同社は、長期にわたる複雑なコーディングタスクや知識労働、推論タスク向けに設計したと説明しており、「オープンなフロンティア知能」の実現を掲げている。リリースに先立ちFinancial Timesが匿名情報源を引用して報じていた段階では、パラメータ数は2兆〜3兆規模、性能はAnthropicのOpus 4.8に匹敵すると見込まれていたが、実際の発表でもこの予測に近い規模・性能で登場した形だ。 技術的な詳細 Moonshot AIによれば、Kimi K3はコーディングや推論に関する特定の評価ベンチマーク(Program Bench、SWE Marathonなど)において、AnthropicのClaude Opus 4.8やOpenAIのGPT-5.5を上回る結果を示したという。一方で同社自身も、総合的な性能では依然として最強クラスのクローズドソースモデルには及ばないと認めている。パラメータ規模では、中国発の既存オープンモデルであるDeepSeek V4 Pro(1.6兆パラメータ)やZhipu AIのGLM 5シリーズ(7440億パラメータ)を大きく上回っており、オープンウェイトモデルとしては世界最大級となる。 背景と今後の展望 今回の発表は、Zhipu AIが1か月前にGLM-5.2をリリースするなど、中国のAI開発企業間でオープンソースモデルをめぐる競争が激化している中で行われた。企業の間ではOpenAIやAnthropicといった高額なクローズドソースモデルへの依存を見直す動きがあり、データセキュリティへの懸念も相まって、DeepSeekやZ.ai(Zhipu AI)などのオープンソース代替への関心が高まっているとされる。Kimi K3の登場は、こうした流れをさらに後押しするとともに、米中のAI開発力格差が縮小しつつあることを象徴する動きとして受け止められている。

July 18, 2026

NVIDIAフアンCEOが来日、トヨタ・ファナックなど日本のロボティクス大手と提携拡大 新モデル「Cosmos 3 Edge」も投入

概要 NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが来日し、東京で富士通の時田隆仁社長、そしてファナック、安川電機、川崎重工業といった日本を代表する産業用ロボットメーカーの経営陣とともに、「フィジカルAI(physical AI)」分野での大規模な提携を発表した。フィジカルAIとは、あらかじめプログラムされた動作をなぞるだけでなく、周囲の状況を自律的に認識・判断し、工場や家庭、病院などで人と安全に協働できるロボットを実現する技術領域を指す。今回の発表の柱となったのが、エッジ向けに最適化した新しい物理AIモデル「Cosmos 3 Edge」と、トヨタ自動車との提携拡大である。フアンCEOは「日本は近代的な製造業を発明した国だ。今こそインテリジェント産業の時代に向けてそれを再発明する好機にある」と述べ、日本を物理AI時代の中核パートナーと位置付けた。 Cosmos 3 Edgeと物理AI連合 新モデル「Cosmos 3 Edge」は40億パラメータ規模で、エッジコンピューティング環境での動作に最適化されているのが特徴だ。ロボットが自らの周囲を認識し、リアルタイムで推論を実行できるほか、NVIDIA Jetson、RTX GPU、DGXシステムなど多様なハードウェア上で動作する。開発者はこのモデルを特定のロボットや車両、センサー、環境向けにおよそ1日でカスタマイズできるとされ、これまで数週間〜数カ月を要していた物理AIの現場適応を大幅に短縮する狙いがある。 この基盤モデルを軸に、ファナックや安川電機、川崎重工業に加え、富士通、日立製作所、NEC、ソニーグループ、ソフトバンクなど複数の日本企業が参加する「Cosmos Coalition」も始動した。富士通は複数メーカーの機器を横断して制御する協調プラットフォームの開発を主導し、クボタは農業機械の自動化、ホンダR&Dやロボットベンチャーのグルーブエックスはロボット開発にそれぞれCosmosを活用する計画だ。川崎重工業はNVIDIA Holoscan IGXとIsaacロボティクスを用いて、手術支援ロボットや病院内搬送ロボットの開発にも取り組むという。 トヨタとの提携拡大 自動車分野では、トヨタ自動車との10年来のパートナーシップがさらに拡大した。従来の自動運転技術開発に加え、今回はNVIDIA Omniverse、Isaacロボティクスプラットフォーム、Nemotron大規模言語モデルを組み込み、静岡県の実証都市「Woven City」でのプロトタイプ開発から車両組立ラインまで幅広く活用する。特にOmniverseを使って組立ラインのデジタルツインを構築することで、エンジニアは実際のラインを変更する前に新しい生産レイアウトや工程を仮想空間でシミュレーションできるようになり、車種切り替えに伴うコストやダウンタイムの削減につながるとしている。このほか、レベル2++の自動運転にはNVIDIA DRIVE AGXとDriveOSを採用し、安全基準MISRAに準拠したコード生成にはMegatron-LMで訓練したCode Assistantを活用するなど、開発から製造、走行まで一気通貫でNVIDIAの技術が組み込まれる形となった。Woven by Toyotaは都市交通向けのマルチモーダル視覚言語モデルも独自に開発しているという。 日本の「フィジカルAI」エコシステムと今後の展望 今回の一連の発表を支えるのが、理化学研究所(RIKEN)に導入される2基のスーパーコンピューターだ。「AI for Science」向けの新システム「RIKYU」はNVIDIA GB200 NVL4プラットフォーム上で1,600基のBlackwell GPUを搭載し、生命科学や材料科学、研究室の自動化などの分野で基盤モデル開発を後押しする。また量子コンピューティングとHPCを統合した「ROQUO」は540基のBlackwell GPUを備え、和光・神戸の量子コンピューター実機と接続される。三菱ケミカルなどが参加する量子化学計算の実証では、CPUのみの計算に比べ13.4倍の高速化を達成したと報告されている。さらにみずほ銀行が国内金融機関最大級のオンプレミスAI基盤をDGX B200で構築するなど、製造業やロボティクスにとどまらず金融やヘルスケアの分野でもNVIDIAの技術導入が進んでいる。中国市場向けの先端半導体輸出規制が引き続き焦点となる中、NVIDIAが日本という成熟した製造業国家との関係を一段と深めている点は、同社の事業戦略上も重要な意味を持つと見られる。

July 17, 2026

TSMC、AI需要でQ2純利益77%増の過去最高益、アリゾナに追加1000億ドル投資へ

概要 台湾積体電路製造(TSMC)は7月16日、2026年第2四半期の決算を発表し、純利益が前年同期比77.4%増の7065.6億台湾ドル(約220億ドル)に達し、5四半期連続で過去最高益を更新したことを明らかにした。売上高も前年比36%増の1兆2700億台湾ドル(約402億ドル)となり、アナリスト予想の1兆2640億台湾ドルを上回った。市場予想(LSEGスマート予想の6326億台湾ドル)も大きく上回る結果となり、好調な業績はNvidiaやAppleなど主要顧客からのAI半導体需要の急拡大が牽引した。 同社はこの好調な業績を背景に、米アリゾナ州への追加投資として新たに1000億ドルを投じる方針も発表した。これによりアリゾナ州における累計投資額は2650億ドルに達する見通し。CEOのC.C.魏氏は、今後さらに4つの工場が同地に建設される可能性があると示唆しており、米国内での先端半導体生産能力の大幅な拡大が進むことになる。 技術的な詳細 第2四半期の売上高構成をみると、AI半導体を含む高性能コンピューティング(HPC)分野が全体の66%を占め、スマートフォン向けが22%で続いた。また7ナノメートル以下の先端プロセスがウェハ売上高の77%を占め、TSMCの技術優位性が業績を押し上げている構図が鮮明になった。6月単月の売上高は4426.8億台湾ドルと過去最高を記録している。 アリゾナ州への追加投資は、2ナノメートル世代の先端製造施設および先端パッケージング設備の拡充に充てられる見込み。TSMCは2026年通期の設備投資見通しも従来の520億〜560億ドルから600億〜640億ドルへと上方修正し、今後3年間の累計投資額は過去3年間を上回る規模になるとしている。 今後の見通し TSMCは第3四半期の売上高について446億〜458億ドル、営業利益率56〜58%になるとの見通しを示した。同社CFOは2ナノメートルプロセスの急速な量産立ち上げが業績を牽引していると説明しており、AI需要を背景とした高水準の成長が当面続く見込みだ。旺盛な需要に対応するための積極的な設備投資と米国内生産拠点の拡大は、地政学的なリスク分散と先端半導体のサプライチェーン強化という観点からも注目される。

July 17, 2026

Apple Intelligence、AlibabaのQwen採用で中国当局から提供承認

概要 中国のサイバースペース管理局(CAC)は、AlibabaのAIモデルQwenを統合したApple Intelligenceの中国国内での提供を承認した。対象となるのはiOS、iPadOS、macOS、visionOSで、Alibabaも今回のパートナーシップを認めているものの、具体的な提供開始時期については明らかにしていない。 技術的な詳細 Alibabaによれば、QwenはApple Intelligenceの体験に統合され、テキストや画像の理解・生成といったAI機能を提供するという。Appleが自社開発したAIモデルではなく、中国国内の規制環境に適応した現地パートナーのモデルを組み込む形で機能を実現する点が特徴だ。 背景 Appleは今回Alibabaと提携する前に、Baidu、DeepSeek、ByteDanceなど複数の中国企業とのパートナーシップを検討していた経緯がある。しかし、中国のユーザー向けにモデルを適応させる過程でそれぞれ課題に直面し、2024年に発表されたApple Intelligenceの機能を中国市場に投入するタイミングが大きく遅れる結果となっていた。 市場への影響と今後の見通し 中国は依然としてAppleにとって最重要市場の一つであり、大中華圏の売上高は2026年第2四半期に前年比28%増の205億ドルに達した。値引き施策を経てAppleはスマートフォン販売台数で中国国内2位の座を奪還したところでもあり、AI機能の投入は競争力強化の追い風となる可能性がある。発表を受けてAlibabaの米国上場株は6%以上上昇した。両社は実装時期や機能の詳細についてはまだ明らかにしておらず、今後の発表が注目される。

July 16, 2026

TSMC、6月売上高が前年比67.9%増の単月最高を記録 AI半導体需要が押し上げ、四半期決算発表を控え期待高まる

概要 世界最大の半導体受託製造(ファウンドリ)企業であるTSMC(台湾積体電路製造)は、6月の売上高が前年同月比67.9%増の4426.8億台湾ドル(約138億米ドル)に達し、単月として過去最高を記録したと発表した。第2四半期全体の売上高もおよそ1兆2700億台湾ドルとなり、アナリスト予想の1兆2640億台湾ドルを上回る見通しで、前年同期比では36%増と四半期としても過去最高となる公算が大きい。上半期(1〜6月)の累計売上高も前年比35.6%増の2兆4000億台湾ドルに達しており、TSMCの成長ペースが年間を通じて加速していることを裏付けている。同社は7月16日(木)に第2四半期決算を発表する予定で、収益性や利益率、2ナノメートル世代の量産進捗などの詳細が明らかになるとして市場の期待が高まっている。発表を受けてTSMCの株価は約1%上昇した。 AI半導体需要が成長を牽引 TSMCのウェイ・チェチアCEOは、AI関連需要について「非常に堅調」と表現しており、その背景には自律的に判断・行動する「エージェント型AI」への進化に伴う演算能力需要の急拡大があるとされる。同社の先端プロセス技術(7ナノメートル以下)は第1四半期時点でウエハ売上高の74%を占め、うち3ナノメートル世代単独で25%を占めるなど、最先端プロセスへの需要集中が鮮明になっている。さらに、NvidiaがTSMCの先端チップパッケージング能力のうち約60%を2026年向けに確保しているとも報じられており、AIアクセラレータ向け需要が生産能力配分にも大きな影響を与えていることがうかがえる。 今後の見通し TSMCはこれまで、2026年通期の売上高が米ドルベースで30%超の成長になるとの見通しを示しており、設備投資額は520億〜560億米ドルの範囲で製造能力拡大に充てる計画としている。今回発表された6月および第2四半期の実績は、こうした強気の通期ガイダンスと整合する内容であり、AIインフラ投資の拡大が当面続くとの見方を裏付けるものとなった。7月16日に予定される正式な決算発表では、利益率の動向や2ナノメートル世代の立ち上げ状況など、より詳細な経営指標が示される見込みで、AI半導体サプライチェーン全体の先行きを占う材料として注目が集まっている。

July 16, 2026

ニューヨーク州、大規模AIデータセンター新設を1年凍結 全米初の州レベル規制に

概要 ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は7月14日、消費電力50メガワット以上の大規模データセンターの新規建設を1年間停止する行政命令に署名した。州環境保全局(DEC)はこの期間、対象となる新規施設への許可を発行しない。米国の州としてAIデータセンターに一時禁止措置を導入するのはニューヨーク州が初めてで、対象は10件超のプロジェクトに及ぶとみられる。ホークル氏は「進歩は、電気料金の上昇や水資源の枯渇、騒音公害と引き換えにあってはならない」と述べ、AIブームに伴うデータセンター建設ラッシュが電力網や水資源、地域社会に与える影響への懸念を表明した。 背景にある懸念 今回の措置の背景には、AI向けデータセンターの急増による電力網への負荷、水の大量消費、電気料金の上昇に対する住民の不安がある。世論調査では、州民の3分の2がデータセンターの増加によって電気料金がさらに上がることを懸念しているという結果も出ている。ホークル氏は「AIは働き方や学び方、コミュニケーションの取り方、ビジネスのあり方を変えつつある」としつつも、電力網へのリスクを抑え、土地の改変を最小限にするための「ガードレール」が必要だと強調した。この1年間の凍結期間中に、州はエネルギー需要や水の使用量・水質、大気質などを評価する環境影響アセスメントを実施し、規制の枠組みを整備する方針だ。 業界への影響と反発 データセンター業界を代表する団体Data Center Coalitionは、今回の凍結措置により「数千億ドル規模」の投資が他州に流出し、ニューヨーク州の雇用や税収が失われかねないと警告している。実際、州は今後、データセンター事業者に電力網支援費用の負担を求めたり、税優遇措置を撤廃したりする可能性も示唆しており、業界にとっては逆風となりそうだ。さらに、20メガワット以上を対象に1年間の一時停止を課すより厳しい法案も州議会で審議されており、今後さらに規制が強化される可能性もある。なお、データセンター開発を積極的に後押ししてきたトランプ政権の方針とは対立する形となっており、連邦と州の政策のずれも今後の焦点となりそうだ。 今後の展望 AI需要を背景に、2030年までに新設されるデータセンターの4分の1近くが500メガワット超の規模になると見込まれており、電力インフラへの負荷は今後さらに増す見通しだ。ニューヨーク州の今回の動きは、他州でも同様の規制を求める議論を後押しする可能性がある一方、同様の州レベルでの一時禁止提案はこれまで他州では成立してこなかった経緯もあり、11月の知事選でホークル氏の対立候補であるブルース・ブレイクマン氏がこの全州一律の凍結に反対し、地域ごとの個別協議を主張するなど、政治的な争点にもなりつつある。1年間の凍結明けにどのような規制枠組みが示されるかが、全米のAIインフラ政策の試金石となりそうだ。

July 16, 2026

AI半導体株が総崩れ、時価総額1兆ドル超消失でTSMC・ASML決算に市場の視線

概要 AIブームを牽引してきた半導体関連株が急速に売り込まれ、Reuters の試算では時価総額で約1兆3000億ドルが失われる「チップ株の暴落」が発生した。マイクロン、インテル、AMD、サムスン電子、SKハイニックスなど主要企業の株価が軒並み下落し、フィラデルフィア半導体指数は10.8%下落、VanEck半導体ETFは直近10営業日で13%安、iシェアーズ半導体ETFも週間で8%下落するなど、指数レベルでも急落が鮮明になっている。下落の背景にあるのは需要そのものの減退ではなく、AIインフラ投資の投資対効果への懐疑論、ドットコムバブル期に匹敵するとも指摘される割高なバリュエーション、そしてFRBのタカ派姿勢が強まったことへの警戒感が重なった結果だとされる。 TSMCとASMLの決算に集まる注目 こうした市場の動揺のさなか、7月15日発表予定のASML、16日発表予定のTSMCの決算はこれまで以上に重要度が高まっている。TSMCは6月単月の売上高がNT$4426.8億と前年同月比68%増、前月比でも6.2%増加し、2026年上半期の累計売上高はNT$2兆404億(前年同期比35.6%増)に達するなど、ファンダメンタルズ自体は極めて強い。市場関係者はNvidia向けチップの需要を支えるCoWoSなど先端パッケージング技術の採算性に注目している。ASMLについてもLSEGの予想によれば、第2四半期の純利益は前年比8.8%増の26億1000万ユーロ、売上高は14%増の88億ユーロに達し、通期売上高ガイダンスは360億〜400億ユーロへ上方修正される可能性がある。アナリストのMehdi Hosseini氏は、ASMLの生産能力は2027年末まで実質的にすべて予約済みとの見方を示しており、好決算とガイダンス引き上げが見込まれている。 ASMLの供給制約と中国リスク ASMLにとって最大の焦点は、AIチップ製造に不可欠な最先端EUV露光装置(1台あたり約3億ドル、製造に約1年を要する)の供給制約だ。同社は2026年に低NA型EUV装置を60台出荷する計画で、これは2025年実績比25%増にあたり、2027年には最大80台まで生産能力を引き上げる方針を示している。JPモルガンのアナリストは理論上110台までの製造が可能と指摘する一方、ASML自身は「理論上90台」との見解を示しており、既存装置のアップグレードや組立・設置の迅速化といった対応策の検討も進めている。一方で中国市場は2026年売上の最大20%を占めるが、これは自動車・産業用・電子製品向けチップに使われる旧世代のDUV装置が中心で、最先端EUV装置は現時点でも中国向けに販売されていない。しかし、同盟国に対中輸出管理の足並みを揃えるよう求める米国の新たな法案がASMLを名指ししており、中国向けの最後の販売チャネルが絶たれかねないリスクとして警戒されている。 見方が分かれるアナリスト評価と今後の展望 ASMLの評価をめぐってはアナリストの見解が分かれている。Morningstarのハビエル・コレオネロ氏は、同社が掲げる2030年の売上目標440億ユーロについて「過度に保守的」だとし、自身は600億ユーロの達成も十分あり得るとの強気の見方を示す一方、KBCのトーマス・クーヴルール氏は2027年予想利益に対する株価収益率が49倍と割高であるとして「ホールド」を維持している。TSMC(Nvidia向けチップ生産)、サムスン電子、SKハイニックス、さらにはインテルの巻き返しやイーロン・マスク氏が構想する「TeraFab」計画といった潜在的な設備投資需要も、ASMLの見通しを支える材料として挙げられている。今回の株安が一時的な調整にとどまるのか、AI投資バブルの転換点となるのかは、15日・16日に相次いで発表されるASMLとTSMCの決算内容とガイダンスが大きな判断材料になるとみられている。

July 15, 2026

ソフトバンクG孫社長「2040年に100兆規模のAIエージェントが働く社会に」、電力・データセンター投資を強化へ

概要 ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は2026年7月14日、法人向けイベントでの講演の中で、2040年までに自律的に仕事をこなす「AIエージェント」が100兆個規模で稼働する未来像を提示した。孫氏は、AIエージェントの普及によって社会や産業の「景色が変わる」と表現し、企業活動や働き方が今後大きく様変わりするとの見通しを示した。 インフラ投資への言及 講演の中で孫氏は、これほど大規模なAIエージェントが稼働するためには、それを支える電力供給とデータセンターといったインフラの拡充が不可欠になると指摘した。ソフトバンクグループとして、こうした需要の急拡大を見据え、電力・データセンター分野への投資をさらに強化していく方針を明らかにした。AIエージェントが実際に「働く」ためには膨大な計算資源と電力が必要になるため、AIモデルの開発競争だけでなく、それを支える物理的なインフラ整備が今後の競争力を左右する要素になるとの認識がうかがえる。 今後の展望 孫氏がたびたび語ってきた「群戦略」やAI投資への積極姿勢の延長線上にある発言として、今回の2040年ビジョンは位置づけられる。100兆個という規模はソフトバンクグループが以前から言及してきたAIエージェントの数値目標と重なるものであり、法人顧客に向けて、AIエージェントの本格的な普及を見据えた事業展開への協力を呼びかける狙いがあるとみられる。今後、電力・データセンター投資の具体的な規模や計画が明らかになるかが注目される。

July 15, 2026