概要

サイバーセキュリティ企業NorForgeは10月19日、オープンソースのAIエージェントツール「Cairn」が悪用され、米国・日本・カナダ・オーストラリアの企業サイトに対して大規模な侵入事件が発生していたことを報告した。主席脅威研究員スノーレ・ファーゲルランド氏が、ウェブ上に意図せず公開されていたCairnの管理パネルをスキャンしたところ、10月2日以降に20件以上の悪意ある稼働インスタンスを発見。攻撃者は100文字にも満たない中国語の指示をAIエージェントに与えるだけで、あとは偵察から脆弱性探索、侵入までを自律的に実行させており、合計1200件を超えるeコマースサイトへの攻撃のうち約10%が成功し、ディア・アンド・カンパニー(John Deere)、シャークニンジャ(SharkNinja)、カミンズ(Cummins)を含む100社超への侵入に至ったとされる。

Cairnとは何か

CairnはGitHubで公開されている汎用の問題解決エンジンで、起点(origin)と目標(target)を設定すると、複数のAIエージェントが「ブラックボード」と呼ばれる共有領域で知見を共有しながら段階的にタスクをこなし、状態空間を探索して目標達成を目指す仕組みを持つ。本来はセキュリティテストなど正当な用途を想定して開発されたとみられるが、この自律的な探索・実行能力がそのまま侵入テスト(ペネトレーションテスト)用途に転用可能であったため、攻撃者による悪用を招いた。開発者側は「ハッキング攻撃用に設計したものではない」と反論している。

攻撃の規模と手口

NorForgeの調査では、ハッキング活動は性質の異なる3つのクラスターに分類された。最大のクラスターは14枚のダッシュボードを運用する「AIA0001」と呼ばれる攻撃者(または小規模グループ)によるもので、中国語で指示を出し、1100件を超える攻撃プロジェクトのうち約8.4%、96件で侵入に成功。米国・日本・オーストラリアのeコマースサイトや決済インフラを主な標的とし、Microsoft製のブラウザ自動化ツールPlaywrightで標的の事前検証を行った上でCairnを投入、侵入後はウェブシェルを設置して持続的なアクセスを確保し、後の金銭化につなげる狙いだったという。第2のクラスターは英語で運用される10枚のパネルで、クレジットカード情報や暗号資産の窃取を目的に加盟店決済サービスやグレーマーケットの決済プラットフォーム、医薬品販売サイトを標的とし、活動拠点はアフリカにあると推測されている。第3のクラスターは単独のパネルで59件のプロジェクトを運用し、米国大手を含む幅広いeコマースサイトのシェルアクセスや管理パネル、データベースへのアクセスを狙っていた。攻撃者が与えていた指示の例としては、アクセス数が20万~150万程度の特定地域のeコマースサイトを標的に「ハッキングに利用可能な脆弱性を探せ」といった簡潔な自然言語の文言や、「クレジットカードを取得せよ」「暗号資産を取得せよ」といった概括的な目標の指定が確認されている。

低コスト化するAI悪用と今後の懸念

最大クラスターの活動では、侵入成功までの所要時間が平均で約23時間、使用したAIのトークンコストは全体で約5000ドル(1件あたり約50ドル)にとどまったという。従来は専門知識を持つ攻撃者が時間をかけて行っていた偵察・脆弱性探索・侵入のプロセスを、AIエージェントが自律的に、かつ極めて低コストで代替できることを示した事例であり、攻撃の自動化・民主化が加速する懸念を浮き立たせている。なお攻撃者は中国語圏を拠点とする個人または少数グループとみられるが逮捕や立件には至っておらず、ファーゲルランド氏は「金銭目的の犯罪であり、国家によるものとみられる侵入活動は確認されていない」としている。調査はAI悪用によるリテール業界への攻撃を以前から報告していたGambit Securityの先行調査を受けて行われたもので、NorForgeは各組織に対し、管理パネルの認証強化、ネットワーク分離、ログ監視の徹底といった対策を推奨している。