概要
SpaceXは10月8日、スペクトル投資会社Grain Managementが保有する全米規模の800MHz帯スペクトル資産を約80億ドルで取得する契約を発表した。取得するのは最大14MHz幅のペアード低帯域スペクトルで、連邦通信委員会(FCC)の承認を経て正式に移管される予定だ。Elon Muskはこの取得を「米国で完全な携帯カバレッジを実現するために残された、最後の重要なスペクトルのパズルの一片」と位置づけており、衛星直接通信サービス「Starlink Mobile」の携帯通信事業参入を一段と加速させる布石となる。
技術的な意味
800MHz帯は高周波帯に比べて伝播距離が長く、建物内への透過性にも優れるため、屋内や地下、農村部の通信困難地域でのカバレッジ確保に適している。SpaceXはこれまでT-Mobileなど地上の携帯通信事業者との提携によって、衛星と対応スマートフォンを直接結ぶ「ダイレクト・トゥ・デバイス」方式を展開してきたが、自前のライセンス周波数を持たないことが技術的な制約となっていた。Grainの800MHz帯を自社で保有することで、衛星コンステレーションと地上基地局を組み合わせたハイブリッド型のアーキテクチャを構築し、屋内や通信死角を含むあらゆる場所でシームレスに接続できる体制を整える狙いがある。なお、現行のStarlink V1・V2衛星は800MHz帯に対応しておらず、今後投入が予定される2GHz帯対応の新型衛星群(約1万5000基規模)を含めたシステム全体の刷新が必要になるとみられる。
業界への反応と評価の分かれ目
この発表を受け、既存の大手携帯キャリア3社の株価は軒並み下落した。T-Mobileは約10%、AT&Tは6%超、Verizonも5.5%程度値を下げており、市場はSpaceXの通信キャリア事業参入を本格的な競争上の脅威と受け止めている。TD Cowenのアナリストは、2027年4月に予定される周波数オークション「Auction 115」を見据え、新規参入者の存在が競争環境をこれまで以上に揺るがす要因になると指摘する。一方でNew Street Researchなどは「完全なカバレッジ」という触れ込みに懐疑的な見方を示し、大手3社は数十年にわたり蓄積してきたスペクトル資産を依然として大きく上回る規模で保有していると分析している。地上ネットワークをゼロから構築するには数百億ドル規模の投資と数万基の基地局が必要になるとの見積もりもあり、SpaceXが自社網構築とMVNO(仮想移動体通信事業者)契約のどちらを軸にするかが今後の戦略を左右しそうだ。
今後の見通し
今回の契約はFCCの承認を前提としており、審査では展開義務や既存事業者との干渉保護、衛星と地上運用の統合に関わる論点が残されている。承認の時期は明らかになっていないが、SpaceXが周波数資産を積み増すことで、既存キャリアとの提携交渉における立場も強まるとみられる。アナリストの間では、Big 3のうちどの事業者が先にStarlink Mobileとの卸売契約で協調するかによって、今後の市場構図が大きく変わるとの見方が出ており、SpaceXの通信キャリア事業参入の動向は今後も注視される。