概要
AWSは10月24日(土)、ドイツ・ブランデンブルク州にあるデータセンターを拠点とする「European Sovereign Cloud(ESC)」を、AWSグローバルネットワークのバックボーンと専用の運用データ転送チャネルから数時間切断する実証実験を実施する。切断中は、EU域内に設置された専用ハードウェア・ソフトウェア、EU域内に保管されたソースコードのローカルコピー、そしてEU居住者のみで構成される運用チームによって、通常のプライベート回線を使わずに欧州の一般インターネット回線経由でリージョンの運用を継続できるかを検証する。顧客データとメタデータは実験中も一貫してEU域内に留まる設計だが、一部の運用データについては国際チャネルを経由する可能性があるという。
実験の狙いと評価の枠組み
AWSのマネージングディレクターであるStéphane Israëlは、この実証実験が「EU Cloud Sovereignty Framework」とドイツ連邦情報セキュリティ庁(BSI)の「C3A」基準に沿ったものであり、顧客がその結果を自社のコンプライアンス資料に組み込めるようにすることが目的だと説明している。AWS自身も、切断対象となる2つのシステム(グローバルネットワークのバックボーンと運用データ転送チャネル)は「運用上クリティカルではない」と位置づけており、だからこそリージョンが両者なしでも存続できるとしている。背景には、GDPR準拠の徹底や、米国CLOUD Actに基づく米当局のデータアクセスへの懸念に応え、欧州における米系クラウドサービスへの依存から脱却したいという欧州側の機運がある。ルクセンブルクでは既にMicrosoftがAzure Extended Zonesを展開するなど、主権クラウドをめぐる競争環境も変化しつつある。
残る論点と技術的な不確実性
一方で、この実証実験が示すのはあくまで「運用上の回復力(オペレーショナル・レジリエンス)」であり、「法的な主権」そのものではないという指摘も出ている。セキュリティアナリストのAndrea Fortuneは、米国法と欧州法が衝突する場面では、企業は自社を統制する法域の規則に従わざるを得ないと指摘し、データが技術的に保護されていても米CLOUD Actの下では米政府によるアクセスが可能になり得るとの懸念を示す。技術面でも、今回の実験はあくまで数時間規模の短期切断であり、より長期間にわたって独立運用を維持できるか、IAMやDNSといったグローバルサービスが切断時にどう機能するか、認証トークンや証明書の期限切れが運用にどう影響するかなど、未検証の論点が残っている。また、プライベート回線からパブリックな回線へ切り替わる際に、顧客側で一時的な接続の不便が生じる可能性も指摘されている。
展望
今回の実証実験は、欧州の政府機関や規制当局がクラウド事業者に求める主権要件に対し、AWSが具体的な検証データを示す初の試みとして注目される。結果次第では、EUの公共部門や規制の厳しい業種における米系クラウド採用の判断材料になり得る一方、法的主権の観点での懸念が解消されない限り、非米系クラウドやローカル事業者への移行を模索する欧州企業の動きは今後も続くとみられる。