概要
米司法省(DOJ)は、北朝鮮の国家主導サイバー脅威グループ「Famous Chollima」(別名WageMole)による不正就労スキームを摘発する「Lonestar Roundup」作戦の一環として、9月21日から25日にかけてテキサス州内の「ラップトップファーム」40カ所以上に対する強制捜索を実施した。米国人協力者2人、Michael James Bostelle容疑者(31歳、フィラデルフィア在住)とJuan Cecilio Pena Carrillo容疑者(37歳、テキサス州サンフアン在住)を逮捕し、オハイオ州の別件起訴では中国籍の被告10人(身元を秘匿された2人を含め計12人)を含む計14人を訴追した。捜索ではノートPCやKVM(キーボード・ビデオ・マウス切替)機器約187台を押収している。
手口と被害の規模
このスキームは2019年から2025年7月まで約6年間にわたり運用され、盗んだ米国人の身元や偽造した身分を使って北朝鮮のITワーカーが70社以上の米企業に遠隔職として採用されるという構図だった。被害企業はヘルスケア、通信、サイバーセキュリティ、小売、製造業など多岐にわたり、マサチューセッツ、カリフォルニア、ニューヨーク、テキサスなど全米17州とワシントンD.C.に及ぶ。
企業から支給されたノートPCを、採用された本人ではなく米国内の「ラップトップファーム」と呼ばれる住居に転送し、そこに設置したKVM機器や遠隔操作ソフトを通じて北朝鮮の作業者が操作することで、あたかも米国在住者が業務を行っているように偽装していた。発送先を欺くため、偽の盗難被害を届け出て交換機への発送先を変更したり、複数の住所を経由させて最終的な転送先を隠したり、「引っ越した」と偽って配送中の荷物を途中で横取りするなど、発送追跡を逃れる手口が使われた。米国人協力者はビデオ面接への代理出演や身分確認の偽装、荷物の受け取り・転送などの役割を担い、金銭的に困窮した人物が標的として勧誘されていたとされる。この活動により北朝鮮側は約300万ドルの不正収益を得たとみられ、その収益の85〜90%が北朝鮮政府に渡っていたと報じられている。
関係者のコメントと国家安全保障上の意味
Ryan Raybould米連邦検事は「摘発したラップトップファーム1カ所ごとに、北朝鮮政府が兵器開発計画の資金源としている収益の流れを一つ断つことになる」と述べ、David M. Toepfer米連邦検事も「北朝鮮のような国家主体がもたらす脅威は、敵対者が米国の経済的な強みを自らの目的のために利用しようとしていることを如実に示している」とコメントした。セキュリティ企業CrowdStrikeは、この摘発作戦を「Famous Chollimaの米国内インフラを解体する、より広範な米法執行機関の取り組みの始まり」と位置づけている。
今後の見通し
CrowdStrikeは「この摘発による効果は一時的なものにとどまる可能性が高く、敵対者は発見と妨害を回避する手法を進化させ続けるだろう」と警告している。実際、FBIはすでに手口の高度化を確認しており、パキスタン・インド・ナイジェリアなど西アフリカのフリーランサーへの業務の再委託、南アジアや西アフリカの協力者を使った身分偽装での採用応募、解雇された元担当者への暴力をちらつかせた脅迫、さらには米政府のセキュリティクリアランスを要する職種や現役軍人をラップトップの受け入れ先として標的にする動きなど、スキームの深刻化が指摘されている。過去の類似事件では協力者に最長9年の禁錮刑が科された例もあり、今後も法執行機関による摘発と北朝鮮側の手口進化とのせめぎ合いが続くとみられる。