概要
セキュリティ企業V12は、リモートアクセスソフト「AnyDesk」のLinux版に存在する脆弱性「AnyPwn」の実証コード(PoC)を公開した。対象はAnyDesk Linux版8.0.2で、攻撃者は接続承認を待たず、未認証のままTCPポート7070経由でroot権限のコード実行を達成できる。影響を受けるのはLinux版のみで、Windows版・macOS版は対象外とされている。現時点でCVE番号は割り当てられていない。
技術的な詳細
脆弱性の根本原因は、AnyDeskのセッションプロトコルが使用する「mode-5」ストリームパケットの処理にある。ハンドラはパケットのバッキング用アロケーションサイズを、宣言されたペイロード長に16バイトのヘッダを加算して算出するが、この計算が32bit演算でオーバーフローチェックを欠いていた。攻撃者がペイロード長として0xFFFFFFF0を宣言すると、32bit演算の結果がラップアラウンドしてゼロになり、実際には極小のバッファしか確保されない一方で、オブジェクト側には元の大きな長さが記録されてしまう。この不整合がヒープ破壊を引き起こす。
発見したのはV12のRick de Jager氏で、同社が開発したセキュリティコードレビューエンジンによって特定された。V12はZellicセキュリティファームの創業メンバーや競技ハッキングチーム「Perfect Blue」出身者が設立した企業である。公開された「AnyPwn」エクスプロイトは、root権限で任意コマンドを実行するROPチェーンを用いるが、ヒープレイアウト上で標的オブジェクトがオーバーフローしたバッファに隣接している必要があるため確率的にしか成功せず、条件を満たさない場合はサービスがクラッシュする。オフセット値はAnyDesk Linux版8.0.2に特化しており、他のビルドでは異なる値が必要になる。
攻撃経路は直接のTCP接続(ポート7070)での実証に限られるが、V12はAnyDeskのリレーサーバー経由でも脆弱なコードパスに到達可能であることを確認しており、リレー経由での完全なエクスプロイトは実演していないものの、攻撃面がより広い可能性を示唆している。
対応状況と教訓
AnyDeskは2026年6月リリースのバージョン8.0.3で本脆弱性を修正済みだが、当初の変更履歴では「クラッシュを引き起こす可能性のあるバグを修正」という曖昧な記述のみで、root権限奪取につながる深刻度は明示されていなかった。現在の最新版は8.1.0。V12は「ベンダーがPoC動画の公開を受けて8.0.2のビルドを削除したようだ」とコメントしている。
なお、これはAnyDeskにおける初めての重大なヒープバッファオーバーフロー脆弱性ではない。全プラットフォームに影響したユーザー画像処理の整数オーバーフロー脆弱性CVE-2025-27918は2025年4月リリースの7.0.0で修正されており、今回のAnyPwnとは別の脆弱性である。管理者はAnyDesk Linux版を8.0.3以降へ速やかに更新することが推奨される。即時のパッチ適用が難しい場合は、TCPポート7070へのアクセスを制限することでリスクを低減できる。