概要
SpaceXは10月8日、全米規模の800MHz帯低周波スペクトル(ペアで最大14MHz)を資産運用会社Grain Managementから買収する契約を発表した。取引はFCC(米連邦通信委員会)の承認を条件としており、買収金額は公表されていない。Grain Managementはこのスペクトルを2025年初頭にT-Mobileから取得し、2026年8月に29億ドルで買収を完了させていた経緯があり、今回はそのスペクトルがわずか数ヶ月でSpaceXの手に渡ることになる。発表を受け、アフターマーケット取引でAT&Tが6.75%、T-Mobile USが5.4%、Verizonが5%下落するなど、米大手通信3社の株価が軒並み急落した。一方でSpaceX自身の株価も4.19%下げており、巨額の周波数帯買収という異例の一手に市場全体が反応した格好だ。
Starlink Mobileの狙いと技術的意義
この買収は、FCCがSpaceXの衛星約15,000基からなる第2世代(Gen2)衛星直接接続(D2D)コンステレーションを承認した直後というタイミングで発表された。SpaceXは、低周波数帯のスペクトルは壁などの障害物に対する透過性が高く、屋内環境でも衛星からのサービスを提供できるようになると説明している。既存のStarlink Mobileは2GHz帯の中周波スペクトルを高速・大容量通信のために用いていたが、新たに獲得する800MHz帯は壁や樹木などの障害物を貫通しやすく、屋内や携帯通信のデッドゾーンでもサービスを提供できるようになる。両帯域を組み合わせることで、屋内・屋外を問わない多層的なカバレッジの実現を目指す。低周波帯はほとんどの既存モバイル端末が標準で対応しているため、新端末への買い替えなしに利用できる点も大きい。実現すれば、SpaceXは衛星スペクトルと地上スペクトルの両方を自ら保有・運用する初の事業者となる見通しだ。
市場が警戒する「第4の携帯事業者」
株価急落の背景には、SpaceXが単なる衛星通信の補完的サービスではなく、既存の携帯大手3社と直接競合する「ハイブリッド型(衛星+地上)ネットワーク」事業者になりうるという警戒感がある。ネット上のコメント欄などでは、SpaceXの参入によって米国の無線通信市場に「第4の大手プレイヤー」が誕生する可能性を指摘する声や、2026年初頭にAIサービス関連の発表が相次いでセクター全体の株価を揺さぶった局面を想起させるとの声も見られる。地上基地局網を持たないSpaceXが地上スペクトルまで獲得することは、既存キャリアにとって設備投資の優位性や周波数資源の希少性という従来の競争優位を相対化しかねないインパクトを持つ。
今後の見通し
今回の契約はあくまでFCCの承認が前提であり、審査の行方や完了時期は不明瞭だ。ただし、FCCが直近でGen2衛星コンステレーションを承認したことと合わせて考えると、規制当局がSpaceXの衛星・地上ハイブリッド通信戦略を後押しする方向に動いている可能性がある。承認が得られれば、Starlink Mobileは衛星通信事業者から本格的な携帯通信事業者へと立場を変えることになり、AT&T・Verizon・T-Mobileは価格・カバレッジ両面での対応を迫られることになりそうだ。