概要

アムステルダム自由大学のVUsecとScuola Superiore Sant’Annaの研究者らは、Spectre v2系統に属する新型の投機的実行攻撃「Branch Target Reuse(BTR)」を実証した。CVE-2026-64507およびCVE-2026-64508として採番されたこの脆弱性は、Intelプロセッサ上で動作するLinuxシステムを対象に、既存の緩和策が有効な環境下でもrootパスワードハッシュをわずか数分で抽出できるという。研究者らのテストでは、Raptor Coveコアで平均3分、Lion Coveコアで5分という短時間でハッシュの復号が完了し、データはおよそ8バイト/秒の速度で漏洩したとされる。

攻撃の仕組み

BTR攻撃は、JITエンジンが不要になったコードを解放し、同じメモリアドレスに新しいコードを配置する際に生じる「分岐予測器と実際の実行コードのズレ」を悪用する。CPUの分岐予測器には古いコードの情報が残留しており、攻撃者はこの残留情報を利用して誤った命令を投機的に実行させ、キャッシュのタイミング差を通じて機密データを読み取る。研究者らは、JITの分岐オフセットに攻撃用の命令をエンコードすることで、“constant blinding"を有効にした強化環境であっても防御を回避できることを示した。ブラウザのFirefox SpiderMonkeyやGraalVMのJITエンジンでも同様の手法が検証されており、攻撃対象はLinuxカーネルに留まらない可能性がある。

影響範囲と対応状況

研究者らによれば、Intel、AMD、Armを含むテスト対象のほぼすべてのCPUで何らかの脆弱性が確認されており、投機的実行を用いる現代のプロセッサ設計そのものに起因する根深い問題であることがうかがえる。なお、パスワードハッシュの漏洩は平文パスワードの直接取得を意味するわけではなく、実際の悪用にはハッシュアルゴリズムやパスワード強度に応じたオフラインでの解析が別途必要になるとされる。Linuxカーネルにはすでに修正が取り込まれており、研究者らはOSおよびファームウェアのアップデートを適用し、最新カーネルへ速やかに移行するよう呼びかけている。既存のSpectre対策で安全性を担保してきたシステム管理者にとっては、緩和策の前提そのものを見直す必要に迫られる発見といえる。