概要

イタリアのソフトウェア企業Bending Spoonsは、オンラインホワイトボードツールを手がけるMiroを全額現金で買収することに合意した。買収額は約13.6億ドル(株式価値ベースでは17.9億ドル)で、Miroが2021年末に付けていた175億ドルというピーク評価額からは実に92%の下落となる。コロナ禍のリモートワーク需要を追い風に急成長した象徴的なSaaS企業の評価額が、わずか数年でここまで縮小したことは、パンデミック期に膨らんだソフトウェア企業の株価・評価額調整がなお続いていることを改めて示す事例となった。

Miroの現状とここまでの経緯

Miroは2011年に「RealtimeBoard」として創業し、その後リモートワークの拡大に伴ってオンラインホワイトボード市場の代表的プレイヤーへと成長した。現在は年間経常収益(ARR)が約6億ドルに達し、その9割は企業・法人顧客からのものだという。有料ユーザーは400万人、総ユーザー数は1億人規模に上り、Atlassian、Cisco、Microsoft、Zoomなど大手との連携を進めながら250以上のアプリケーションとの統合を実現してきた。近年はAIアシスタントやワークフロー機能を備えた「AIイノベーションワークスペース」への転換も進めている。同社は現時点で黒字化しているものの、成長鈍化を受けて2023年2月に119人、2024年10月に275人と、2度にわたる人員削減を実施しており、ピーク時に約1,200人いた従業員数は縮小が続いていた。

評価額急落の背景

Miroの評価額急落は、2021年に過熱したSaaS企業の株価・評価額バブルが崩壊した後の調整局面を色濃く反映している。パンデミック下のリモートワーク特需で急成長した企業の多くは、その後の成長鈍化とともに市場からの評価を大きく見直されており、Miroもその一例となった。加えて、Canva、Figma、Microsoftといった資金力に勝る競合との競争激化や、企業側による重複ツール・ライセンスの整理統合の動きも、Miroの成長を圧迫する要因となっていたとみられる。買収時点でMiroは約4.35億ドルの純現金を保有しており、事業自体は堅調だが、かつて描かれていた「次世代ソフトウェア大手」としての急成長シナリオからは後退した形だ。

Bending Spoonsの買収戦略

Bending Spoonsは近年、かつて急成長のソフトウェア大手候補として高い評価を受けながら、その後は成長速度が鈍化しつつも安定した収益基盤を持つに至った知名度の高いSaaS企業を相次いで買収する戦略を取っている。今回のMiro買収もこの流れに沿ったものであり、割安になった評価額で実績あるプロダクトと顧客基盤を取り込む狙いがあるとみられる。同社の一連の買収動向は、パンデミック後のソフトウェア業界における評価額の再編と、それを商機と捉える買収側の動きの双方を映し出しており、今後も同様の案件が続く可能性がある。