米司法省(DOJ)は、Nvidiaが2025年12月に発表したAIチップ新興企業Groqとの巨額ライセンス契約について、通常の合併審査(独占禁止法上のレビュー)を意図的に回避する目的で構造化したかどうかの調査に着手した。DOJは契約発表からほどなく捜査を開始し、すでにNvidiaに対して正式な情報提供要求(civil investigative demand)を送付しているという。契約規模は報道によって170億ドルから200億ドルまで幅があり、ライセンス料単体の金額か、幹部引き抜きの価値を含めた総額かで数字が食い違っている。

契約の実態は、Nvidiaが Groq を買収するのではなく、同社のチップ技術に対する非独占的ライセンスを取得し、同時に創業者のJonathan Rossを含む複数の幹部・エンジニアを自社に迎え入れるというものだった。買収であれば米国の合併前届出制度(HSR法)に基づく規制当局への事前通知と審査が義務付けられるが、ライセンス供与と人材引き抜きを組み合わせたこの形態は、その手続きの対象外となる。結果として Groq は創業者と主要エンジニアの多くを失い、競争力を大きく低下させ、現在は残った人員を立て直すために6億5000万ドルの資金調達を進めている。Nvidiaはこれに対し、ライセンスは非独占的であり、Groqは事業体として存続しており、そのエンジニアたちは他社に移る自由もあるとして、実質的な買収には当たらないとの立場を示している。

「逆アクハイアー」という業界の慣行

DOJが問題視する背景には、Nvidiaが同種の取引を繰り返している点がある。AIモデル新興企業Poolsideに対しても、Nvidiaはモデルファクトリーのライセンスに60億ドルを支払い、109人のスタッフを引き抜くという酷似した構造の契約を結んでいた。技術ライセンスと大量の人材移籍を組み合わせるこうした「逆アクハイアー」型の取引は、Nvidia固有の手法ではなく、2023年以降、大手テック各社がAI人材と技術を取り込む際の主要な手段として定着してきた経緯がある。今回の捜査は、こうした取引形態が本来は規制当局への届出を要する「実質的な買収」に該当するのかという、業界全体が先送りにしてきた法的な論点に初めて正面から向き合うものとなる。なお、Nvidia・Groq間の契約規模の大きさは今年3月の時点ですでに米上院議員のElizabeth WarrenやRichard Blumenthalらの関心を集めており、政治的な監視の目も強まっていた。

今後の見通し

専門家の見立てでは、DOJが今回の調査で問題ありと判断した場合でも、契約そのものの解消(巻き戻し)を命じる可能性は低く、罰金などの制裁にとどまる公算が大きいとされる。とはいえ、ライセンス供与と人材移籍を組み合わせた取引が合併審査の対象となり得るという判断が下されれば、AI業界全体で常態化しつつある「逆アクハイアー」の設計そのものに影響を及ぼす可能性がある。NvidiaのAI半導体市場における圧倒的な地位を踏まえると、今回の捜査の帰結は、他の大手テック企業が同様の手法でAI新興企業の技術と人材を取り込む際の先例としても注視されることになりそうだ。