概要

ロシア語圏とみられる脅威アクターが、数百体のAIエージェントを動員してプリント管理ソフトウェアPaperCut NG/MFの脆弱性CVE-2026-81578およびCVE-2026-82078を悪用し、48カ国395組織・440以上のインスタンスを侵害したことが明らかになった。両脆弱性は認証バイパスと権限のない設定変更を許し、リモートコード実行につながるもので、PaperCutは2026年8月27日に緊急パッチを公開している。GreyNoiseの分析によれば、初期アクセスから実際のRCE達成までは4時間未満、そこからドメイン管理者権限の奪取まではさらに2時間というスピードで進行し、米国のある高校では侵入開始からわずか7分でドメイン管理者権限が奪取される事例も確認された。教育セクターが被害組織204件と全体の半数超を占め、米国が98件で最多、次いで英国、フランス、スペイン、カナダが続く。

AIエージェントによる攻撃の自動化

今回の攻撃で際立つのは、攻撃の大部分がAIエージェントによって自律的に実行された点である。攻撃者はDeepSeekのAIモデルをOpenAI Codexのハーネス上で動かし、AIエージェント向けの永続メモリレイヤー「Hindsight」や、エージェント駆動のワークフローを調整するUIツール「AionUI」を組み合わせて運用していた。GreyNoiseの研究チームは「圧倒的多数のタスクは自律的であり、認識された人間の中断はわずかであった」と指摘しており、数日単位の活動の空白は人間による限定的な介入や指示待ちを示唆しているとみられる。攻撃には認証情報収集ツールのMimikatz、Active Directory偵察用のBloodHoundやCertipy、資格情報奪取のRubeus、侵害後フレームワークのImpacket、トンネリングツールのLigolo-ngなど既存の攻撃ツール群も組み合わされ、ターゲットの選定にはNetlasプラットフォームが用いられた。

侵入から権限昇格までの経路

攻撃者は主に3つの権限昇格経路を使い分けていた。1つ目はLSASSのプロセスメモリやレジストリの秘密情報から特権認証情報を抽出し、パスザハッシュ攻撃で認証を突破する手法。2つ目はWindows Active Directoryの既知の脆弱性であるCVE-2021-42278およびCVE-2021-42287を組み合わせた「noPac」攻撃を用いた権限昇格。3つ目は、PaperCutホストがドメインコントローラー上で稼働している場合に新規のドメイン管理者アカウントを直接追加する手法である。いずれの経路でも最終的にはDCSyncを使ってNTDS.DITデータベースをダンプし、ドメイン内の全認証情報を窃取していた。ほかにVeeam Backup & Replicationの脆弱性CVE-2023-27532を悪用するツールも攻撃者のツールキットに含まれていたが、実際の攻撃では使用が確認されなかったという。

攻撃者の活動範囲と対策

攻撃には2026年7月初旬から悪用が確認されているIPアドレス45.142.193[.]132が使われており、同一のインフラはPalo Alto、Ubiquiti、Citrix、SonicWall、Proxmox VEといった他ベンダー製品への攻撃にも関与していたとされる。攻撃者は28カ国を攻撃対象からあらかじめ除外するリストを設定していたものの、南アフリカ(9件)やブラジル(5件)など、一部の除外対象国でも実際には侵害が確認されており、AIエージェントによる自動運用の精度にはなお限界があることもうかがえる。セキュリティ企業Blackpointのアナリストは、PaperCutを最新の修正リリースへ直ちにアップグレードすること、PaperCut Application Serverへのウェブアクセスを制限すること、pc-app.exeプロセス配下での不審な挙動を監視することを推奨している。さらに侵害が疑われる場合は、PaperCutホスト単体にとどまらず、特権アカウントの新規作成、認証情報へのアクセス、Active Directoryの偵察活動、内部ネットワークへの侵入拡大の有無まで調査範囲を広げるべきだと警告している。AIエージェントが攻撃の速度と規模を飛躍的に高めている実例として、今後の脅威動向を占ううえでも注目される事案だ。