概要
富士通は9月8日、ダイヤモンド結晶中の格子欠陥を量子ビットとして利用する「ダイヤモンドスピン方式」の量子コンピューター試作機を世界で初めて開発したと発表した。オランダのデルフト工科大学・QuTechとの共同研究による成果で、炭素原子の一部をスズに置き換えたダイヤモンドを用い、電子が持つ磁石のような性質「スピン」を量子ビットとして利用する。両者は2020年から研究開発を続けてきており、今回の試作機はその一つの到達点となる。
技術的な詳細
従来のダイヤモンドスピン方式では窒素原子を空孔と組み合わせた「窒素空孔(NV)中心」が使われてきたが、富士通は独自のスズ置換技術により「スズ空孔(SnV)中心」を採用した。これにより、従来比で約10倍明るい信号特性を実現し、外部ノイズの影響を受けにくく量子状態が保たれやすいため、計算精度の向上につながるという。試作機の開発にあたっては、異種材料接合技術、ダイヤモンドを数百マイクロメートルから数百ナノメートルへ薄層化する技術、フォトニクス集積回路技術など複数の要素技術を新たに開発した。動作温度はマイナス271.6度で、超伝導方式の量子コンピューターより高い温度での動作を確認しているという。
他方式に対する優位性
ダイヤモンドスピン方式は、高いフィデリティ(忠実度)が特長であり、超伝導方式などに比べて少数の物理量子ビットから誤り耐性のある論理量子ビットを構成できる可能性があるとされる。また、光を介した量子ビット同士の接続がしやすいため、モジュールを組み合わせた大規模化にも適している。超伝導方式より比較的高温で動作できる点も、冷却系の負担軽減という観点で優位性となる。
今後の展望
富士通研究所の佐藤信太郎氏は、「ダイヤモンドスピン方式の大規模化を目指すだけでなく、量子コンピューターをつなげた計算を可能にする技術としても開発を進めたい」とコメントしている。同社は2027年までに複数の量子モジュールから構成されるプロトタイプの開発を目指す方針で、将来的には超伝導方式との統合により大規模な誤り耐性量子コンピューターの実現を目指すとしている。今回開発した光接続技術は、異なる方式の量子コンピューター同士を接続する技術としても応用が見込まれており、量子コンピューティング全体のスケールアップに向けた基盤技術としての展開が期待される。