概要

ASMLは9月8日、Intel Foundry、TSMC、Samsung Electronicsとの共同声明を発表し、半導体業界が数十年にわたり使い続けてきた6インチ(150mm)フォトマスクから、12インチ(300mm)フォトマスクへ移行する計画を明らかにした。対象となるのは、微細化と大面積露光を両立する次世代露光装置「High NA EUV」だ。AIアクセラレータなど巨大化するチップの製造を単発露光で完結させ、生産性を最大4割高めることを目指す。競合関係にあるTSMC、Samsung、Intelという3大ファウンダリが揃って支持を表明したことは、業界全体でこの規格転換に踏み切る強い意志を示している。

なぜ12インチマスクが必要なのか

High NA EUVは、従来のEUV露光装置よりも微細なパターンを解像できる一方、非対称(アナモルフィック)光学系を採用しているため、1回の露光で露光できる面積は従来世代の装置のおよそ半分に縮小されてしまうという技術的な制約を抱える。ところが、NvidiaやGoogleが設計するようなAIプロセッサはすでに面積約800平方ミリメートルに達し、High NA EUVの露光可能面積の上限に突き当たっている。現状の6インチマスクのままでは、こうした大型チップは複数回の露光をつなぎ合わせる「スティッチング」が必要になり、つなぎ目が歩留まりやスループットを損なう要因となっていた。マスクサイズを倍にする12インチ化によってこのつなぎ目を解消し、単発露光で大型チップを製造できるようにするのが今回の取り組みの核心だ。ASMLの最高技術責任者(CTO)であるMarco Pieters氏は「業界としてこれをやり遂げられれば、装置の生産性は実際に40%向上するだろう」と述べており、同じ生産量をより少ない台数の装置でまかなえるようになるとしている。

導入スケジュールと業界の温度差

今回の移行は一朝一夕には進まない長期計画だ。TSMCは2030年に、既存の6インチマスクを用いたHigh NA EUVの量産を先行させる方針で、TSMCの最高経営責任者(CEO)C.C. Wei氏は、技術革新を維持しつつ業界全体での導入障壁を下げることの重要性を強調した。12インチマスクについては2031年にパイロットラインを構築し、2033年ごろに先端ノードでの量産投入を見込む。一方、Samsungは2028年までにDRAM生産へのHigh NA EUV導入を目標としており、SK Hynixも同様の時期を見据えてコンソーシアムへの参加を検討していると報じられている。Intelはすでに High NA EUVで製造したノートPC向けプロセッサの出荷を始めており、先行者としての立場にある。1台あたり約4億ドルにも上るHigh NA EUV装置への投資は、AIチップ需要の拡大が今後も続くという業界共通の見立てに基づく、10年規模の協調的な資本投下と位置づけられる。

今後の展望

12インチマスクへの移行は、装置メーカーであるASMLとマスク製造・検査を担うサプライチェーン全体、さらにTSMC、Samsung、Intelという競合するファウンダリ各社が同時に足並みを揃える必要がある、業界横断的な規格転換だ。実用化まで2033年前後を見込む長期プロジェクトである一方、AIチップの大型化・高性能化がとどまる兆しはなく、露光技術のボトルネックを早期に解消できるかどうかは、今後の半導体サプライチェーン全体の生産能力とコスト構造を左右する重要な分岐点になるとみられる。