概要

米カリフォルニア州の連邦地裁でリタ・F・リン判事は8月28日、トランプ政権下の国防総省がAnthropicを「国家安全保障上の供給網リスク」に指定した措置について、違法かつ根拠を欠くとして無効とする判断を下した。判事は59ページに及ぶ判決文で、この指定がAnthropicによる政権批判への報復であり、憲法修正第1条(表現の自由)および第5修正条項が保障する適正手続きに違反すると認定した。あわせて、指定の根拠自体も「恣意的で気まぐれ(arbitrary and capricious)」であるとした。今回の判断は、Anthropicがこの問題をめぐって起こした複数の訴訟のうち初めての勝訴となる。

判決の根拠

リン判事は判決文で「国家安全保障という言葉を空虚に唱えることは、政府の批判者を罰し報復するための白紙委任状にはならない」と述べ、国防総省がAnthropicの契約上の対立や公の場での政権批判を「供給網リスク」と結び付けた点に法的根拠がないと指摘した。さらに判事は、指定の実態がヘグセス国防長官らによる、Anthropicの「傲慢さ(arrogance)」を見せしめにしようとする意図に基づくものだったと踏み込んで言及している。

対立の背景

対立の発端は、Anthropicが自社モデルの利用規約において、完全自律型兵器の開発や米国民に対する大規模監視への利用を禁じるセーフガードを設けたことにある。国防総省側はこれを、購入したモデルの使用方法を同社が過度にコントロールしようとする動きと捉え、反発を強めていた。もっとも判事は、国防総省の対応に一貫性を欠く点があったことも重視した。供給網リスクに指定する一方で、政権はAnthropicとの契約締結を継続的に模索し、同社の新モデル「Mythos」をサイバーセキュリティ分野の機密性の高い用途に活用する可能性についても協議していたことが判決の中で明らかにされている。この矛盾が、指定の本当の狙いが安全保障ではなく報復にあったとする判断を後押しした。

今後の展開

Anthropicは今回の一件をめぐり、カリフォルニアとワシントンD.C.の2つの法域で訴訟を提起しており、今回勝訴したのはカリフォルニアでの訴訟にとどまる。D.C.地裁での訴訟は依然として係属中であり、今後の展開が注目される。今回の判断は、AI企業が政府との契約関係において安全性ポリシーを独自に維持する権利と、政府が安全保障を理由に企業活動へ介入する裁量との境界線を示す先例となる可能性があり、他のAI企業と政府機関との関係にも影響を与えうる。