概要

Amazonは、2005年に開始したクラウドソーシング労働プラットフォーム「Mechanical Turk(MTurk)」を2026年9月30日をもって永久に閉鎖すると発表した。Amazonはこの決定について、MTurkのホームページに掲載したバナーで「定期的にプログラムを評価し、調整を行っている」と簡潔に説明するのみで、詳細な公式声明は出していない。一方でAmazonは「評価の結果、AWS Mechanical Turkを2026年9月30日付で閉鎖することを決定した」ともコメントしており、21年間続いたサービスは35日という短い移行期間のみを残して幕を閉じることになる。

サービスの成り立ちと役割

MTurkは、データラベリングやアンケート回答、音声・動画の文字起こしといった単純なデジタル作業を、わずかな報酬と引き換えに人間のワーカーへ発注する仕組みだった。名称は1700年代に作られた自動チェス機械「ザ・ターク」に由来する。Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏は当初、このサービスを「人工知能に対する人工的解決策(artificial artificial intelligence)」と称しており、AIモデルの学習データ収集市場の草分け的存在として位置づけられてきた。ピーク時には世界190カ国から50万人以上のワーカーが登録していたとされる。

終了に至った背景

サービス衰退の背景には、Scale AI、Mercor、Prolificといった新興データラベリング企業の台頭がある。データワーカーの権利擁護団体Turkopticonのオーガナイザーであるクリスタ・パウロスキー氏は、AI技術の急速な進化に伴い、Amazonがプラットフォームの改善に振り向ける資源を縮小してきたことが衰退の一因だと指摘している。加えて、2023年の研究では最大46%のワーカーがタスク遂行にAIを使用していたと報告されており、人間の労働力を前提としたデータ品質そのものへの懸念も生じていた。

ワーカーへの影響と規制上の論点

パウロスキー氏自身、2008年からMTurkでの作業(通称「turking」)に携わり、2012年の失職後はフルタイムで従事して特別な支援を必要とする息子を養ってきたと語っており、保険会社や旅行会社など今なおMTurkに依存する事業者が存在するという。欧州では2024年に合意された「EU Platform Work Directive」により2026年12月までに各国でプラットフォーム労働者保護の国内規則整備が求められているが、MTurkの閉鎖はこの期限のわずか3カ月前にあたり、Amazonは欧州のワーカーへの具体的な対応方針を明らかにしていない。現在のアクティブワーカー数や代替手段の有無についても不明な点が多く残る。

今後の見通し

データラベリング需要そのものは依然として旺盛であり、市場は不特定多数によるクラウドソーシング型から、審査を経た専門ワーカーによる「キュレーションされたワークフォース」型へと再編が進んでいる。中国では中国語の学習データ不足が課題となり、ビデオゲームをトレーニングデータへ変換する新興企業も登場するなど、MTurkが切り開いた市場は形を変えながら拡大を続けている。AmazonによるMTurk終了は、AIが人間の労働市場そのものを再構築しつつあることを象徴する出来事として受け止められている。