概要

英紙テレグラフの報道により、イラン関連とみられるハッカー集団が2026年7月、英国の小規模発電施設に対するサイバー攻撃を実行し、施設を4日間にわたって停止させていたことが8月22日に明らかになった。当局は施設名を公表していないが、英国のエネルギーインフラに対してイラン系とされる攻撃者が初めて成功させた事例とみられ、「この種の攻撃としては最も成功したもの」と評されている。国全体の送電網への影響はなく、政府当局者は「全国的なエネルギーシステムへのリスクはなかった」と説明しているが、重要インフラが数日間にわたって機能停止した事実そのものが専門家の間で懸念を呼んでいる。

攻撃の詳細と施設の位置づけ

標的となったのは「送電網の容量と比べれば誤差の範囲」と形容されるほど小規模な発電施設で、被害の届け出が法的に義務付けられる基準を下回っていたとされる。英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC、GCHQの一部)は報告を受けたものの、公式なコメントは出していない。専門家は、この攻撃が民間人への被害を意図したものというよりも、英国のインフラに随意にアクセスし停止させる能力を誇示する「概念実証(proof of concept)」的な性格が強いと分析している。攻撃の背後にはイラン革命防衛隊(IRGC)の関与が指摘されており、同組織は英国がロンドンから米国に対して「防御的」なサイバー作戦を許可したことを受け、「英国の拠点は正当な標的である」との警告を発していたという。

米国の水道インフラ攻撃との同時性

この発電施設への攻撃とほぼ同時期に、米国でもイラン系とみられるサイバー攻撃が発生していた。7月26日以降、ミネソタ、ミシガン、ジョージア、サウスダコタ、ニュージャージー、アラバマの各州にまたがる複数の下水処理施設が標的となり、浸水や水圧低下といった被害が発生した。FBIおよび米政府関係者はこれらの攻撃をイランの関与によるものとみている。米国は2023年にも、「CyberAv3ngers」と呼ばれるイラン系ハッカー集団が複数の重要インフラ分野で75台以上のデバイスを侵害したと指摘しており、イランによるインフラ攻撃はここ数年繰り返されてきた手口である。過去にはイランが関与したとされる2015年のトルコ大規模停電も引き合いに出されている。

専門家の見解と今後のリスク

セキュリティ企業Huntressのムハンマド・ヤヒヤ・パテル氏は「重要なのは施設の規模ではなく、サイバー攻撃が4日間という実際の業務停止に発展した点だ」と指摘する。Dragos社のフィル・トンキン氏は、こうした攻撃が「大規模に展開可能な、極めて再現性の高い攻撃」であると警告し、Centrii社のラファエル・ナレッツィ氏は「英国にはエネルギーシステムを支える分散型の資産が数多く存在する」として、小規模施設の脆弱性が全体のリスクにつながりうると懸念を示した。一方でDragos社のCEOロバート・M・リー氏は、拙速な犯人特定に警鐘を鳴らし、偽旗作戦の可能性を含め、情報機関による慎重な帰属分析が必要だと述べている。イランは2026年2月に米国とイスラエルによる空爆が始まって以降、サイバー攻撃を活発化させており、ドイツ、ポーランド、フィンランド、ベルギー、アルバニアなども標的となった疑いがある。英国の内閣府報告書は、国内インフラへの深刻なサイバー攻撃が発生する確率を5〜25%と見積もっており、AIの発達が攻撃を「より速く、より安価に、技術的な参入障壁を下げる形で」可能にしていると警鐘を鳴らしている。NCSCは過去1年間で重要インフラに対する攻撃を200件以上処理したとしており、今回の一件は氷山の一角である可能性が指摘されている。