概要

OpenAIは、対象となるエンタープライズ・API顧客向けに主要モデル(フロンティアモデル)での「ゼロデータリテンション(Zero Data Retention、ZDR)」提供を継続・拡充すると発表した。ZDRの下では、リクエストの処理後にプロンプトや出力がOpenAI側に保持されず、OpenAIの従業員がその内容を閲覧することもない。顧客が明示的に同意しない限り、そのデータがモデルの学習に使われることもない。これにより、金融記録や医療情報、機密性の高い事業計画など、機微なデータを扱う企業がAIを導入する際の心理的・規制的な障壁を下げることが狙いだ。

ゼロデータリテンションの仕組みと対象

ZDRのデータ管理方法には大きく2つの選択肢がある。1つは顧客が管理するインフラ上にコンテンツを留め置く方式、もう1つはOpenAI側のインフラに保存しつつも顧客が管理する暗号鍵で暗号化し、OpenAIの担当者がその鍵を保有しない方式だ。いずれも、コンテンツそのものがOpenAI社員の目に触れない設計になっている。

ただし例外も明示されている。児童搾取素材(CSAM)に該当するとみなされたコンテンツは通報目的で保持されるほか、ベクトルストアやスレッドなど特定のAPIサーバー機能に関連するデータは保持対象となる。またOpenAIは、特定のモデルをZDRの対象外にする権利も留保している。なお、この提供は個人向けChatGPTユーザーには適用されず、あくまでケースバイケースで契約するエンタープライズ・API顧客が対象となる。

Private Safety Processingとその意義

ZDRのようにコンテンツを一切保持しない運用は、裏を返せば不正利用の検知を難しくするという課題を抱えていた。これに対応するため、OpenAIは新しい安全監視の仕組み「Private Safety Processing(PSP)」をプレビュー発表した。PSPは、個々のやり取りの内容そのものにOpenAIの担当者が直接アクセスすることなく、複数の関連するやり取りにまたがるパターンを分析し、疑わしい有害行為について狭く限定された「シグナル」だけを検出・報告する仕組みだ。AIが長時間かつ自律的なタスクをこなすようになるにつれ、単発のやり取りだけでなく、一連の関連する操作の中に潜むリスクを見極める必要性が高まっていることが背景にある。PSPの技術的な詳細については、2026年9月に公開予定のホワイトペーパーで明らかにされる見込みだ。

導入の背景と今後の展望

これまで強力なAIシステムを安全に運用するには、安全監視のために機密性の高いコンテンツをある程度保持する必要があり、これが企業のセキュリティポリシーやデータ最小化義務としばしば衝突してきた。規制産業や医療・金融分野の企業にとって、この対立はAI導入を妨げる大きな要因になっていたとされる。今回の発表は、企業側がAI活用によるリスクの一部について自ら責任を負う代わりに、機密データをOpenAI側に残さないという選択肢を強化する動きと言える。もっとも、「学習に使用しない」ことと「一切保持しない」ことは異なる約束であり、一時的なメモリ処理や法的な強制保存の可能性は残るなど、ZDRだけで高度な脅威をすべて検知できるわけではないとの指摘もある。PSPの正式な技術仕様が公開される9月以降、企業がこの新しい枠組みをどう評価し採用していくかが注目される。