概要

Anthropicは、GoogleでTPU(テンソル処理ユニット)事業をゼロから立ち上げ、率いてきたAmir Salek氏を採用したと報じられた。同社はこの2週間ほど前に自社チップ設計チームの構築を公表し、年俸最大48万5000ドルというエンジニア職の求人を出していたばかりで、今回の招聘はその布石が具体化した形だ。Salek氏はまさに、Anthropicがこれから社内に築こうとしている「ハイパースケーラー規模での自社AIチップ設計」という機能を、Googleで実際にゼロから作り上げた経験を持つ人物であり、いわば「お手本」となる人材の獲得といえる。

Amir Salek氏の経歴

Salek氏はNvidiaで8年間勤務し、システム・オン・チップ(SoC)設計グループを立ち上げてGPUやTegraチップの開発を主導した後、2013年にGoogleへ移籍。以来、Googleの自社シリコン事業をゼロから構築し、2022年まで同部門を率いた。この間、複数世代にわたるTPUに加え、エッジ向けの「Edge TPU」など専用チップの開発も統括している。GoogleのTPUは同社のAI基盤を支える中核技術であり、Salek氏はその生みの親の一人と位置付けられる。

Anthropicのハードウェア戦略

今回の人材獲得は、Anthropicが進める多面的な半導体戦略の一環でもある。同社はすでに、英チップ新興企業Fractileと約2億5000万ドル規模の初期契約を締結しており、契約は将来的に拡大される見込みだ。ただしFractileのチップは、HBM(広帯域メモリ)や外部DRAMへのデータ移動を排し、演算処理をSRAM上に直接統合するという従来とは異なるアーキテクチャを採用しているものの、実際の量産投入は2027年以降になる見通しで、Anthropicはいわば「まだ存在しない半導体」に先行投資した形だ。

このほかにもAnthropicは、6月にGoogleから350億ドル規模のチップ調達に関する資金支援を取り付けてTPUの直接供給を受けているほか、7月にはAMDが最大50億ドルの投資とともに自社データセンターへのAMD製チップ導入で合意している。さらにSamsungとはカスタムチップについて協議を進め、SK Hynixにも供給を働きかけるなど、特定ベンダーへの依存を避けつつ複線的に計算資源を確保する動きを加速させている。

今後の展望

生成AIモデルの学習・推論需要が拡大を続ける中、AnthropicのようなAIモデル開発企業が自社で半導体設計に踏み込む動きは、OpenAIやGoogle、Amazonなど競合他社の動向とも軌を一にする。Salek氏のような「TPUを実際にゼロから立ち上げた」経験を持つ人材の獲得は、単なる採用にとどまらず、Anthropicが中長期的に外部ベンダーへの依存を減らし、推論コストの低減とAI基盤の垂直統合を狙う戦略の本気度を示すシグナルとして受け止められている。