概要
Nature誌が報じたプレプリント調査により、生物医学分野の論文の約9割に大規模言語モデル(LLM)使用の痕跡が見られることが明らかになった。2025年に発表された論文では77%、2024年発表分では52%でAI利用の兆候が確認され、わずか1年の間に科学出版へのAI浸透が急速に進んでいる実態が浮き彫りになった。抄録のみを対象とした2024年分の分析では13.5%だったが、より感度の高い検出手法を用いると31%まで上昇するといい、手法によって推定値が大きく変わることも示された。
調査手法
研究チームは、言語モデルが文章生成時に統計的に使用しやすい特定の単語の出現頻度を分析することで、AIによる執筆支援の痕跡を検出した。コンピュータ科学者のDmitry Kobak氏は、より感度の高い手法を用いることで、従来よりも直接的で精度の高い推定値が得られると説明している。この手法はPubMed Centralのリポジトリに収録された論文を対象に適用された。
セクションごとの使用実態
論文内のセクション別にAI使用の痕跡を分析したところ、明確な差異が見られた。考察(ディスカッション)部分では78%と高い割合でAI使用の兆候が確認された一方、結果(リザルト)部分でも58%に達した。研究者らは特に結果部分でのAI使用について懸念を示している。これは、言語モデルがデータを捏造(ハルシネーション)する傾向があるためで、実験結果そのものの記述にAIが関与している場合、科学的な正確性や再現性に影響を及ぼしかねないという指摘だ。
今後の展望
社会学者のKyle Siler氏は、生成AIはすでに科学出版のプロセスに深く組み込まれており、後戻りすることはないとの見方を示し、「チューブから出た歯磨き粉は元に戻らない」と比喩した。この見解は、2025年に実施された別の調査で71%の研究者が論文執筆の支援にAIを利用していると回答した結果とも一致している。AIの活用が既成事実化しつつある中、今後は結果の捏造リスクや査読プロセスでの検証体制など、科学的信頼性を担保するための対応が課題となりそうだ。