概要
中国の二大クラウド事業者であるTencent CloudとAlibaba Cloudが、8月18日にそれぞれアジア太平洋地域での新たなインフラ投資を発表した。Tencent Cloudはマレーシア・ジョホール州に最大3つのアベイラビリティーゾーンを持つ同国初のクラウドリージョンを設立すると発表し、うち2つのゾーンは今週中に稼働、3つ目は2026年11月に稼働予定としている。一方Alibaba Cloudは韓国・ソウルに3つ目となるデータセンターを開設した。両社に共通するのは、生成AIおよびエージェント型AIサービスに対する企業需要の急拡大を見据えた先行投資だという点である。
Tencent Cloud、マレーシアで人材育成とセットの展開
Tencent Cloudの新リージョンは、シンガポール、インドネシア、タイに続く東南アジアでの拠点拡充であり、これにより同社のグローバルインフラは23リージョン・66アベイラビリティーゾーン体制となる。単なる設備投資にとどまらず、国立マレーシア工科大学(UTM)と提携し、AI・クラウド分野の人材1,000人以上を育成する取り組みも同時に発表した。AI・クラウドイノベーションのハッカソン、トレーナー養成プログラム、実務に即した認定資格制度などが含まれる。Tencent CloudのVPであるBluefin Jiannan Zhao氏は「マレーシアの新クラウドリージョンは、当社のグローバルインフラにおける重要な拠点となる」とコメント。マレーシア現地法人のGMを務めるNucky Fang氏も、現地インフラと同社のAI技術力を組み合わせることで顧客との連携を強化できると述べている。背景には、マレーシア企業の5割超が既にAIを導入しているという急速な普及があり、データレジデンシーやレイテンシーの観点からローカルインフラへの需要が高まっている。
Alibaba Cloud、韓国でエージェントAI基盤を強化
Alibaba Cloudの韓国3拠点目のデータセンターは、2022年開設の1拠点目、2025年開設の2拠点目に続くもので、いずれもソウル圏に位置する。同社は530億ドル規模のAI・クラウドインフラ投資計画の一環として今回の拡張を進めており、グローバルでは30リージョン・104アベイラビリティーゾーンに達した。新拠点ではコンピューティング、ストレージ、ネットワーク、セキュリティ、データベース、コンテナなどのフルスタックなクラウドサービスを提供するほか、サービスレベルアグリーメント(SLA)を99.95%から99.99%へ引き上げる。特に注力するのがエージェント型AIサービスの拡充で、AIエージェントの開発・テスト・展開・運用・セキュリティをカバーするAgentRun、STAROps、ACS Agent Sandbox、Agent Security Center、AI Security Guardrails 2.0、Agentic SOCといった一連のサービス群を展開する。韓国カントリーマネージャーのYoon氏は、顧客の同意なしに韓国国内のデータが国外へ移転されることはないと強調し、データレジデンシーへの懸念に配慮する姿勢を示した。韓国のデータセンター市場は2025年時点で50.4億ドル規模とされ、2031年には162.3億ドルまで拡大すると予測されており、旺盛な需要が今回の投資判断を後押ししたとみられる。
背景と今後の展望
両社の動きは、生成AIおよびエージェント型AIの企業導入が中国国内にとどまらず東南アジアや東アジアの各国で加速していることを映し出している。特にAlibaba Cloudがエージェントのライフサイクル管理やセキュリティに特化したサービス群を投入している点は、単なる計算資源の提供にとどまらず、AIエージェント運用基盤としてのポジショニングを強めていることを示唆する。Tencent Cloudもインフラ投資と人材育成をセットで進めることで、現地エコシステムへの浸透を図っている。米国系クラウド大手がAI関連投資を拡大する中、中国系クラウド事業者もアジア太平洋地域での存在感を高めており、今後も地域単位でのデータレジデンシー対応やAIサービスの現地化競争が激化していくとみられる。