概要

AI推論向けチップを手掛けるスタートアップEtchedが、金融取引大手Jane Street主導のシリーズDラウンドで7億ドルを調達し、評価額が210億ドルに達したと発表した。同社の評価額は2026年7月時点で103億ドルだったばかりで、わずか1ヶ月ほどで倍増したことになる。さらにさかのぼると2025年12月時点の評価額は50億ドルであり、この8ヶ月ほどで4倍以上に急騰したペースは、生成AIブームの中でもとりわけ急速な部類に入る。ラウンドにはKleiner Perkins、Sequoia Capital、Andreessen Horowitz、Peter ThielらAI領域の主要投資家に加え、Jane Streetのほかにも複数のプロップトレーディングファームが名を連ねているとされ、レイテンシがそのまま収益に直結する金融業界がAI推論ハードウェアに強い関心を寄せている構図がうかがえる。

技術的な特徴

Etchedは、AI推論のワークロードを支える完全なシステムを「フロンティア推論クラスター」と位置づけて提供している。同社Co-founder兼COOのRobert Wachen氏によれば、開発の柱は大きく2つある。1つは、AIモデルの初期処理を担う「プリフィルチップ」で、従来のプロセッサよりも低い電圧で動作させることでより多くのトランジスタを搭載しつつ発熱の制約を避け、トークン処理の高速化を図っている。もう1つは、複数のチップを接続して高速・低遅延の共有メモリプールとして扱う「クラスタースケールメモリ」で、これによりモデルの出力生成(デコード)フェーズを効率化する狙いがある。台湾積体電路製造(TSMC)との製造パートナーシップも報じられており、台湾に新たな拠点を設けるなど、量産体制の拡大に向けた投資も進めているという。

顧客獲得と今後の展望

Jane Streetは今回の投資に先立って自社データセンターでEtchedのチップを試験導入し、初期結果に満足しているとの声明を出している。Etchedはこのラウンド発表の時点で、Jane Streetを最初の顧客として既に初のラックを納入済みであり、AI企業やクラウド事業者との契約総額は10億ドルを超えているとしている。短期間での評価額急騰と大型契約の獲得は、NVIDIAなどの既存プレイヤーが握る推論チップ市場に新興企業が食い込む余地があることを示す一方、実際の量産・出荷規模を今後どこまで拡大できるかが、評価額に見合う実績を示せるかの試金石となりそうだ。