概要
米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)は、AI/機械学習ワークロード向けの分散コンピューティングフレームワーク「Ray」に存在する重大な脆弱性CVE-2025-62593(CVSSスコア9.4)を、既知の悪用済み脆弱性(KEV)カタログに追加した。この脆弱性はブラウザ経由でのリモートコード実行(RCE)を可能にするもので、すでに攻撃キャンペーンでの悪用が確認されている。連邦政府機関(FCEB)に対しては、2026年8月20日までの修正適用が義務付けられた。
技術的な詳細
脆弱性の根本原因は、Rayの開発チームが長年にわたり主要な認証機構を実装してこなかった点にある。特に"/api/jobs"や"/api/job_agent/jobs/“といった重要なAPIエンドポイントが無防備な状態で公開されていた。唯一の防御策は、HTTPリクエストのUser-Agentヘッダーが「Mozilla」で始まるかどうかを確認するという簡易的なチェックのみだったが、このヘッダーはブラウザ側で自由に書き換え可能であるため、実質的な防御にはなっていなかった。
攻撃者はこの欠陥をDNSリバインディング攻撃と組み合わせることで、悪意あるWebサイトを訪問したり不正広告を表示されたりしたRay実行中の開発者マシン上で任意のシェルコードを実行できる。この手法では、標的のブラウザが「混乱した代理人」として利用され、社内ネットワーク上のプライベートなRayインスタンスへの攻撃にも拡張しうる。この脆弱性は主にFirefoxとSafariで悪用可能とされる。発見にはOligoのセキュリティ研究者Avi Lumelskyと、DNSリバインディング手法を考案したJonathan Leitschuhが貢献しており、Rayバージョン2.52.0で修正済みだ。
悪用状況と背景
本脆弱性は2025年11月の一般公開に先立ち、DDoSボットネット「RondoDox」の攻撃グループによって2日前にはすでに悪用が組み込まれていたと報告されている。さらに、未パッチのRayインスタンスは「ShadowRay 2.0」と呼ばれる攻撃キャンペーンの標的にもなっており、NVIDIA GPUを搭載したクラスタを自己増殖型の暗号資産マイニングボットネットへと転換する目的で悪用されている。AI/ML基盤の計算資源を狙った攻撃が実際に確認されたことで、開発・テスト環境におけるRayの運用リスクが改めて浮き彫りとなった。
今後の対応
CISAは連邦政府機関に対し、拘束的運用指令(BOD 22-01)に基づき2026年8月20日までにRayを修正版へアップデートするよう義務付けている。この指令は連邦機関を対象としたものだが、民間企業や研究機関でRayを開発・運用環境に導入している組織にとっても、早急なバージョン2.52.0以降への更新が強く推奨される。KEVカタログへの追加は実際の悪用が確認された脆弱性を示すものであり、暗号資産マイニングボットネット化やDDoS攻撃への悪用が継続している以上、パッチ未適用のインスタンスは引き続き高いリスクにさらされる。