概要
中国のAI開発企業Z.aiは8月14日、オープンウェイトの大規模言語モデル「GLM-5.3」を発表した。同社によれば、ベースモデルは前世代の「GLM-5.2」と同一のMixture-of-Expertsアーキテクチャ(パラメータ数7,530億、コンテキストウィンドウ100万トークン)であり、アーキテクチャ変更や再学習は行わず、スケールを大幅に拡大した事後学習のみで性能向上を実現したという。長期タスク評価であるTerminal-Bench 3.0ではオープンソースモデル最高スコアを記録し、コーディングエージェント評価でもGLM-5.2比で50%の性能向上が確認された。モデルはAPIおよびGLM Coding Planサブスクリプション経由で即座に利用可能となっており、モデルウェイトは安全性評価と対策強化を終えた約2週間後にHugging Face上でオープンソースライセンスの下、公開される予定である。
事後学習アプローチとコーディング性能
Z.aiが採用したのは「環境スケーリング」と呼ぶ手法だ。学習パイプラインでは、研究エージェントが実務上のコーディングタスクをシミュレーション環境に変換し、判定エージェントがその実行可能性を検証する仕組みを構築。開発者のワークステーションを模したサンドボックス環境で、経験豊富なエンジニアの数日分の作業に相当する複雑なタスクをこなす訓練を重ねたという。報酬信号には解法に至る軌跡(トラジェクトリ)を用いることで、モデルが近道をして正解にたどり着く「ショートカット」を排除する工夫も施されている。
この結果、長期タスク系ベンチマークで顕著な改善が見られた。Terminal-Bench 3.0のスコアは4.6%から28.3%へ、DeepSWE v1.1は46.2%から66.9%へとそれぞれ大幅に向上している。また同社独自の「Z.ai Code Bench」では、Anthropicの「Claude Opus 4.8」と同等の取り組み量でこれを上回り、出力トークンの消費量では、GLM-5.3が1タスクあたり約5万トークンで31.4%のスコアを達成したのに対し、Claude Opus 4.8は約12万トークンを要して29.5%にとどまり、効率面でも優位に立ったとしている。
意図せず獲得したサイバーセキュリティ能力
今回の発表で特に注目されているのが、開発チームが当初想定していなかったサイバーセキュリティ関連能力の急伸だ。Z.aiは、脆弱性データを学習に導入した際は個別の欠陥発見能力の向上を見込んでいたが、学習規模の拡大に伴って能力が複利的に増加し、結果として完全なエクスプロイトチェーンを一貫して立案する能力が「創発」したと説明している。
具体的には、サイバーセキュリティ関連ベンチマークのCyberGymで77.2%から84.5%へ、2時間の制限時間内でのタスク達成数を競うExploitGymでは29タスクから105タスクへと大きく成績を伸ばした。中国のセキュリティチームと協力して実施した実地検証では、269件のオープンソースプロジェクトを対象に2,436件の脆弱性を特定し、うち1,097件は重大(Critical)または高度(High)の深刻度に分類されるものだったという。なお、CyberGymではAnthropicの「Claude Mythos 5」を上回った一方、他の2つのサイバーセキュリティベンチマークではAnthropicのフラッグシップモデルに後れを取ったとも報告されている。
今後の展望
GLM-5.3はすでにAPI経由で利用可能となっているが、モデルウェイトの一般公開は安全性評価と防御策の強化が完了した後、約2週間の猶予を置いて実施される。これは、意図せず獲得したサイバー攻撃能力の悪用リスクを考慮した対応とみられる。オープンウェイトモデルが商用フラッグシップモデルに匹敵するコーディング性能を、追加の再学習なしに事後学習だけで達成した点は、今後のモデル開発における低コストな性能向上策として注目される一方、能力の急伸が安全性評価のあり方にも新たな課題を突き付ける事例となりそうだ。