概要

AIエージェント開発企業のManusは8月11日、Metaによる20億ドル規模の買収が中国当局の差し止めにより白紙となったことを受け、独立企業として事業を再開すると発表した。Metaは2025年12月29日にManus買収を発表していたが、中国の国家発展改革委員会(NDRC)が異例の対応として両社に取引の完全な巻き戻しを命令。買収発表からわずか4カ月あまりで計画は頓挫した形となる。Metaはすでに社内データシステムからManusのスタッフを切り離し、Meta従業員がManusのツールを利用することも禁止するなど、運営分離に向けた措置を進めている。

中国当局が差し止めた理由

Manusは中国出身のエンジニアによって設立された企業で、2025年にシンガポールへ移転していた。中国商務部は当初、この買収が輸出管理や技術の輸出入、対外投資に関する法規制に適合しているかを審査すると表明し、2026年1月には正式な調査を開始していた。関係者によれば、最大の懸念は、中国のエンジニアとインフラを基盤に築かれたManusが、米国からの投資を受け入れる過程で中国とのつながりを断ち切ろうとしているように見える点にあったとされる。批評家の間では、こうした構造は「シンガポール・ウォッシング」による規制逃れではないかとの指摘も出ていた。NDRCの命令は、たとえオフショアで法人登記を行っていても、技術や人材の出自が中国にある限りは北京の管轄権から逃れられないことを明確に示すものとなった。背景には、米中間でAI関連技術を巡る緊張が高まる中、地政学的ライバルである米国に貴重な技術が流出することへの中国側の強い懸念があるとみられている。

独立運営再開と今後の計画

Manusの共同創業者らは、中国政府の要求に応じて取引を巻き戻すため、自社の買い戻しに向けて約10億ドルの資金調達を模索しているという。共同創業者のXiao Hong氏とJi Yichao氏は3月に北京当局への出頭を求められ、以降は海外渡航を禁止されているとも報じられている。Manusは今回の発表で、独立運営再開にあたりユーザーデータ保護への対応を進めるとともに、AIエージェントの機能を拡張する新機能を準備していると明らかにした。

背景と今後の見通し

Meta・Manus間の買収計画は当初から米中双方の規制当局の注目を集めていた。中国当局が完了間近だった大型のクロスボーダーM&Aを覆すのは異例の対応であり、AI分野における米中間の技術覇権争いの激化を象徴する事例といえる。今回の一件は、中国発の技術・人材を基盤とする企業が海外資本を受け入れる際に、法人登記地に関わらず中国当局の統制対象となり得ることを示した点で、今後同様の構造を持つスタートアップの買収・出資戦略にも影響を与える可能性がある。