概要
フランスのラグビートップリーグ「Top 14」に所属するスタッド・フランセ・パリが、ランサムウェアグループ「Qilin」によるサイバー攻撃を受けたことが明らかになった。Qilinは8月5日、ダークウェブ上の自らのリークサイトにクラブを標的として掲載し、「データ公開まで246時間21分」とするカウントダウンを表示した。クラブは8月6日に攻撃を公式に認め、独立した専門家の支援を受けた危機管理体制を発動するとともに、当局への刑事告訴を行った。8月7日までにクリーンなバックアップからシステムを復旧させ、チケット販売サイトやオンラインストアへの影響はなかったとしている。
Qilinは攻撃の証拠として、選手18人分とされるパスポートや身分証明書の写真をリークサイト上で公開した。これらの文書には氏名、写真、生年月日・出生地、国籍、身分証番号といった機微な個人情報が含まれるのが一般的で、なりすましや偽造文書の作成、標的型フィッシング、詐欺、ドキシングなど選手個人に対するリスクが懸念されている。クラブはどの情報がどの範囲で流出したかを明らかにしておらず、被害規模については「数百ギガバイト」との推定があるものの、公式な確認は取れていない。
Qilinとは何か
Qilinは2022年半ばに「Agenda」という名称で活動を開始したランサムウェアグループで、現在は「Ransomware-as-a-Service(RaaS)」モデルで運営されているとされる。ロシア語圏のサイバー犯罪者との関連が指摘されており、被害者のシステムを暗号化する前にデータを窃取し、身代金を支払わなければ公開すると脅す「二重恐喝」の手口を用いる。過去の被害には病院や医療検査機関が含まれ、2024年には英国の医療検査ラボSynnovisへの攻撃でNHS(英国民保健サービス)傘下の病院運営が数週間にわたり混乱した実績がある。
なぜスポーツクラブが狙われるのか
セキュリティ専門家は、スポーツ団体が攻撃者にとって魅力的な標的である理由として、選手・スタッフ・会員・取引先に関する個人データに加え、医療情報や財務・商業契約といった機密性の高い情報を保有している点を挙げる。さらに「メディア露出度が高く、早期の支払い圧力を強めやすい」という特性も攻撃者を引き寄せる要因とされる。今回の攻撃はTop 14シーズン開幕前というタイミングで発生しており、クラブへの心理的圧力を一層強める結果となった。Recorded Future(the Record)の報道によれば、近年はアヤックス、ボローニャFC、パリ・サンジェルマン、マンチェスター・ユナイテッドをはじめ複数のサッカー協会もランサムウェア攻撃の被害に遭っており、スポーツ業界全体が金銭目的のハッカーの標的として狙われる傾向が強まっている。
今後の見通し
Qilinは身代金交渉の期限を8月15日に設定し、応じない場合はさらなるデータの公開を予告している。要求額は公表されていない。スタッド・フランセは攻撃者とのやり取りについて公にコメントすることを控えており、被害の全容解明と流出データの範囲について調査を継続している。