概要

2008年リリースのLinux 2.6.25以降、実に18年にわたって存在し続けていたLinuxカーネルのSCTP(Stream Control Transmission Protocol)実装のuse-after-free脆弱性が公表された。CVE-2026-64564として追跡され、「SCTPhantom」と命名されたこの欠陥は、Tencent Zhuque Labの研究者によって発見され、特権コンテナに限らず一般的な非特権ユーザーであっても、特別な権限(CAP_NET_ADMINやCAP_SYS_ADMIN)なしにroot権限の奪取とコンテナからホストマシンへのエスケープを実現できることが実証された。既に8月3日リリースの安定版カーネルで修正が完了している。

技術的な詳細

SCTPは、複数のネットワークパスを同時に利用できるマルチホーミング機能を持つトランスポート層プロトコルで、通信の冗長性向上を目的として設計されている。SCTPhantomはこのマルチパス機能に起因するカーネルのメモリ管理上の矛盾を突くものだ。具体的には、カーネルがトランスポート(パス)の削除リクエストを処理する際、リクエストの正当性をパケットの送信元アドレスに基づいて確認する一方、実際の通信は選択された別のパス(アドレス)を使って行われるという食い違いが存在する。この不整合を悪用することで、既に解放されたメモリ領域への参照が生じるuse-after-freeの状態を意図的に作り出し、カーネルメモリの読み書きへとつなげることが可能になる。攻撃はローカルからSCTPプロトコルに到達可能な環境であれば成立し、リモートからの直接攻撃は想定されていない。

影響範囲と悪用シナリオ

影響を受けるディストリビューションとして、Debian 13、Ubuntu 24.04、Rocky Linux 9、RHEL 9、OpenCloudOSなどが挙げられている。いずれも標準的な設定でSCTPカーネルモジュールがロード可能な状態にあり、悪用の対象となり得る。研究者らの検証では、コンテナ環境においても特権を持たないプロセスからこの脆弱性を突くことで、ホストマシンの権限を掌握できることが示されており、マルチテナント環境やコンテナオーケストレーション基盤を運用する組織にとって深刻なリスクとなる。

対応状況と推奨事項

本脆弱性は2026年8月3日にリリースされた安定版カーネル(7.1.6、6.18.42、6.12.101、6.6.148)で既に修正済みである。ただし、カーネルのバージョン文字列を確認するだけでは修正パッチが適用済みかどうかを判断できないケースがあるため、利用しているディストリビューションが提供する脆弱性トラッカーで個別に修正状況を確認することが推奨される。また、業務上SCTPプロトコルを利用していない環境では、該当カーネルモジュールの読み込みをブロックすることで、そもそも攻撃対象領域(アタックサーフェス)自体を排除できるとされている。