概要

リヒテンシュタイン政府は、企業・財団・信託の実質的所有者情報を管理する登記システム「Register of Economic Beneficiaries(経済的受益者登録簿)」が不正アクセスを受け、約3万1000件の法人に関する氏名・生年月日・国籍などのデータが窃取されたと発表した。攻撃は7月29日から30日にかけての夜間に発生し、身元不明の攻撃者がリヒテンシュタイン司法局のシステムに2日間にわたって侵入したとみられている。侵害は7月30日(木)に発覚し、当局は直ちにシステムをオフラインにして対応にあたった。政府はブリジット・ハース首相と司法大臣エマヌエル・シェードラーを中心とする緊急対策チームを土曜の夜に組織し、犯人の追跡と影響を受けた当事者への通知を進めている。なお、データの削除や改ざんの痕跡は確認されていないという。

標的となった登記システムの役割

今回狙われた登録簿は、EUのマネーロンダリング防止規則に準拠する形で2021年に創設されたもので、企業・財団・信託の背後にいる実質的な所有者を特定し、マネーロンダリングやテロ資金供与を防止する目的で運用されてきた。人口約4万人のリヒテンシュタインは、スイスとオーストリアに挟まれた小国でありながら、世界中の富裕層向けウェルスマネジメントの一大拠点として知られており、金融サービス産業が経済の中核を担っている。そうした国の金融コンプライアンスを支える基幹インフラが標的にされたことは、同国の金融ハブとしての信頼性にも関わる問題として受け止められている。

今後の対応と広がる懸念

当局は流出した情報の全容解明を進めるとともに、影響を受けた法人・個人への速やかな通知を約束している。今回の事案は一国にとどまらない懸念も指摘されており、政府系の登記システムを狙った同様の攻撃はフランスでも複数発生しているとされる。マネーロンダリング対策のために整備された実質的所有者情報のデータベースは、各国で近年整備が進んできた一方、機微な個人情報や資産情報を一元的に保持するため、攻撃者にとって魅力的な標的になりつつある実態が改めて浮き彫りになった。