概要
サウジアラビア公的投資基金(PIF)が主導するコンソーシアムによるElectronic Arts(EA)の買収が、2026年8月4日(現地時間火曜)に完了した。総額550億ドルにのぼる全額現金でのレバレッジド・バイアウト(LBO)は史上最大規模とされ、EAは37年間続いたナスダック上場企業としての歴史を終え非公開企業となる。買収の中心となったのはPIFに加え、米プライベートエクイティのSilver Lake、そしてジャレッド・クシュナー氏率いる投資会社Affinity Partners(その資金の大半はPIFからの20億ドルの出資による)で構成されるコンソーシアムであり、closing時点でPIFはEAの株式の大部分を保有することになる。買収は2025年9月の発表以来、EA株主および規制当局の承認を経て、2026年7月30日に規制当局の最終承認を取得し、今回の完了に至った。
買収の詳細
買収額550億ドルの内訳は、コンソーシアム各社による約360億ドルの出資と、JPモルガン・チェースが主導する200億ドルの負債性資金(closing時点で180億ドルが実行済み)となっている。買い付け価格は1株あたり210ドルの現金で、これは2025年9月25日終値の168.32ドルに対して約25%のプレミアムにあたる。PIFはEAの既存出資分(9.9%相当)を買収スキームにロールオーバーする形で参加した。EAの上場は廃止され、株式はナスダックから削除されるが、本社は引き続き米カリフォルニア州レッドウッドシティに置かれ、CEOのアンドリュー・ウィルソン氏が経営を続投する。ウィルソン氏は「新たなパートナーの支援を得て、次世代のエンターテインメントを切り開く準備が整った」とコメントしている。PIF副総裁のトルキ・アルノワイセル氏は、PIFが5年以上にわたりEAの少数株主として関与してきた経緯に触れ、コンソーシアムが「持続的な成長とイノベーションを推進する長期的パートナーとして独自の立場にある」と述べた。Silver LakeのEgon Durban氏はAI活用によるゲーム開発とプレイヤー体験の強化に投資する方針を強調し、クシュナー氏は「EAは世界中の数億人の日常の一部となる物語やキャラクター、コミュニティを生み出してきた」と評価した。
背景と懸念
非公開化の狙いは、四半期ごとの業績プレッシャーから解放され、長期的な視点でのイノベーションを追求できる点にある。EAは2025会計年度に75億ドルの売上を計上し、「マッデンNFL」や「EA Sports FC」といった安定した収益を生むフランチャイズを抱えている。今回の買収は、コンテンツの消費者にとどまらずグローバルなデジタルエンターテインメント資産の支配権を握ろうとする湾岸協力会議(GCC)諸国の戦略的転換を反映するものであり、サウジアラビアの「ビジョン2030」による経済多角化戦略とも合致する。PIFは以前にも49億ドルでScopelyを買収するなど、ゲーム業界への投資を拡大してきた。一方で、この取引にはサウジアラビアの人権記録(処刑や拷問の疑惑、LGBTQ+の権利や表現の自由への制限など)を理由とする批判の声もある。格付け機関はEAの信用格付けを引き下げる方向で見直す構えを見せているほか、非公開化により決算発表がなくなることで企業の透明性が低下する懸念、BioWareなどスタジオの閉鎖への不安も指摘されている。さらにクシュナー氏については、外交的な役割と金融上の利益との利益相反の疑いをめぐり、下院で調査が行われている点も報じられている。
今後の展望
EAは今後、新たな体制のもとでAI活用を軸としたゲーム開発の強化やプレイヤー体験の向上に注力するとみられる。目先の大型タイトルとしては、10月10日発売予定の「バトルフィールド6」が控えている。今回の買収はゲーム業界における史上最大級のLBOであり、サウジアラビア系資本によるグローバルエンターテインメント企業への影響力拡大を象徴する動きとして、今後の業界再編や他社への波及効果が注目される。