概要
原子力スタートアップのValar Atomicsは8月3日、Sequoia Capitalが主導するシリーズBラウンドで10億ドルを調達したと発表した。評価額は前回の20億ドルから3倍となる60億ドルに達している。ラウンドにはValor Equity PartnersやConviction、Atreides Management、Point72、Snowpoint Venturesなど計9社以上のベンチャーキャピタルが参加したほか、Erebor、J.P. Morgan、Crescent Cove、Hercules Capitalが提供する2億ドルのクレジットファシリティも別途組成された。SequoiaパートナーのShaun Maguire氏は取締役会に参加する。同社が掲げるのは、AIデータセンターが必要とする膨大な電力需要に応えるため、小型モジュール式原子炉(SMR)を自動車のように生産ラインで大量生産するという構想だ。
技術的な詳細
Valar Atomicsが開発するのはヘリウム冷却式のマイクロリアクターで、テスト機である「Ward-250」がその実証機となっている。最大の特徴は水使用量の劇的な削減で、従来の原子力施設が冷却に1メガワットあたり年間260万ガロンの水を要していたのに対し、閉ループ冷却システムの採用によりほぼゼロ、あるいは数百ガロン程度まで抑えられるという。開発サイクルも大幅に短縮されており、先行するNOVA炉の開発に2年を要したのに対し、Ward-250はわずか7ヶ月で臨界に到達したとしている。
同社は7月、自己持続的な核連鎖反応によって直接電力を発電し、Nvidiaのチップに給電してウェブサイトをホストするという実証に成功した。これは2026年時点でこの成果を達成した4社のうちの1社となる。さらにNvidiaとの提携により、Ward-250リアクターをデータセンターに設置し、BlackwellベースのAI処理ユニットを原子力で直接稼働させる実証も行っている。両社は現在、ユタ州に30メガワット規模の商用原子力AI施設の建設を計画しており、実現すれば両社にとって初の商用事例となる。
量産計画と今後の展望
Valar AtomicsのCEOであるIsaiah Taylor氏は、「1基のリアクターは単独プロジェクトとして建設できるが、フリート(艦隊規模の量産)は製造されなければならない」と述べ、量産体制への転換の必要性を強調した。同社は年間数十基から数千基規模の生産体制の確立を目指しており、AIの急速な成長とそれに伴う電力需要の高まりが今回の大型調達ラウンドを後押ししたとしている。
一方で、原子力業界は歴史的に予算超過や工期遅延が常態化しており、中国とロシアを除けば商用稼働している小型モジュール炉はまだ存在しないという厳しい現実もある。Valar Atomicsが「AI産業が求める速度とコストで原子炉を量産できるか」は、今回投じられた10億ドルが試される最大の課題だ。同分野では他にもX-energy(7億ドル調達、2026年4月上場)、Radiant Industries(3億ドル調達)、Aalo Atomics(1億ドル調達)など複数のスタートアップが競合しており、AI向け電力インフラをめぐる原子力スタートアップ間の競争は今後さらに激化しそうだ。