概要
ミュンヘン地方裁判所(Landgericht München I、事件番号 42 O 763/25)は2026年7月31日、AI音楽生成企業Sunoが、ドイツの音楽著作権管理団体GEMAが管理する楽曲を無許諾でAIモデルの訓練に使用したことについて、著作権侵害にあたるとの判決を下した。GEMAは2025年1月に提訴しており、AlphavilleやLou Begaの楽曲を含む数万件の保護作品がSunoの訓練パイプラインで無断利用されていたことが立証されたという。裁判所はSunoに対し、侵害行為から得た収益に関する情報の開示を命じ、損害賠償額はその収益額に連動して算定される見込みである。この判決は、AI企業が著作権保護された楽曲を訓練データとして無許諾で利用することが欧州でも侵害となり得ることを示した主要な判例とされている。
侵害の経緯と技術的手法
訴訟資料によれば、SunoはYouTubeから音楽データを抽出する「ストリームリッピング」技術を用いて、米国内でAIモデルを訓練していたとされる。この手法はYouTubeが施す技術的保護手段を回避するものであり、結果として生成された音楽の中には、著名アーティストの楽曲と酷似した構成のものが含まれていた。GEMA側は、単純なテキストプロンプトを入力するだけでほぼ同一の出力が得られることを実証し、これが偶然の一致ではなくモデルが原曲を記憶・再現していることの証拠だと主張した。
裁判所の法的判断
裁判所は、Sunoの行為がドイツ著作権法(UrhG)第16条(複製権)および第15条2項(公衆への伝達権)に違反すると判断した。楽曲がモデル内に記憶され、出力として再現される状態は違法な複製にあたるとされた。Sunoは、テキスト・データマイニング(TDM)の権利制限規定(UrhG第44b条)の適用を主張したが、裁判所はこれを退けた。同条が認めるのは分析目的の複製に限られ、楽曲全体をモデルに組み込むような利用までは正当化されないというのが理由である。さらに米国法上のフェアユースの抗弁についても、生成物の中に原曲が明確に識別できる形で現れている以上、成立しないと判断された。Sunoは「楽曲そのものはモデルに含まれておらず学習されたパターンに過ぎない」「出力はプロンプトに起因するものでありSunoの責任ではない」「プロンプトは単純で結果を限定していない」といった反論を展開したが、裁判所は楽曲の複雑性からして偶然の再現はあり得ず、モデルのアーキテクチャに対する責任はSuno側にあると結論づけ、これらの主張をいずれも退けた。なお、国際裁判管轄については、権利管理団体に特別な裁判籍を認めるVGG(著作権管理団体法)第131条を根拠とし、保護国主義のもとで海外での侵害行為についても審理できるとした。
今後の影響
この判決はまだ確定しておらず、Suno側が控訴する可能性が高いとみられる。とはいえ、AI企業が著作物をトレーニングデータとして利用する際にライセンスが必要かどうかを問う欧州初の主要な判例として、今後の同種訴訟に大きな影響を与えると見込まれる。GEMAはSunoと並行して、ChatGPTが生成した歌詞を巡りOpenAIに対しても同様の訴訟を提起しており、AI企業のコンテンツ利用のあり方全体を見直す動きにつながる可能性がある。