概要

OpenAIは、未発表の次期主力モデル「Astra」の内部版が、数学と理論計算機科学における10年以上未解決だった10個の問題を解決したと発表した。Astraは長時間・長期間にわたる問題解決タスクをこなし、複数のエージェントを協調させて複雑な課題に取り組めるモデルファミリーと位置付けられており、まだ確定した公開時期はない。CEOのサム・アルトマン氏はワシントンの政策関係者にこのシステムをデモした。OpenAIは10件すべての解を生成するのに要した計算コストを「Sol(GPT-5.6の最上位ティア)のAPI料金換算で約2,000ドル」相当と説明しており、その後研究者らがAstraと協力してLean 4によって証明を形式化し、機械検証可能な証明書として249ページのマニュフェストとともにGitHub上で公開した。

解決された10の問題

最大の目玉とされるのが、非可換群論(群論)における非sofic群(non-sofic group)の初の明示的構成である。ロシア出身の数学者ミハイル・グロモフが1999年にsofic性の概念を提唱して以来、27年間解決されていなかった中心的な未解決問題だったという。このほかにも、フォン・ノイマン環に関するConnesの剛性予想の反証、ポール・エルデシュが遺した未解決問題集のうち3問(多色ラムゼー数に関する問題183を含む)の解決、1978年以来初となる高次元球充填密度の上限の改善、2人プレイヤー量子ゲームにおける並列反復定理の証明、回路計算量の新たな下限の確立などが含まれる。対象分野は高次元幾何学、符号理論、群論、量子計算複雑性、格子暗号、極値組合せ論と多岐にわたる。

数学者コミュニティの反応

エルデシュ問題集のウェブサイトを管理する英マンチェスター大学の数学者トーマス・ブルーム氏は、今回の成果を「大きなニュース」と評価し、OpenAIが5月に発表した単位距離予想の反証よりも意義深いとの見方を示した。一方で同氏は、AIが数学者に取って代わるという主張には否定的で、Astraは1世紀以上にわたる人類の数学理論の蓄積を土台にしており、そのモデル自体も数学者の手によって構築されたものだと指摘している。

もっとも、今回の発表は数学界とAI企業の間で高まる緊張関係のさなかに行われた。国際数学連合(IMU)は6月、AI企業が査読を経ずに公表済みの研究成果を無断で利用しているとして警鐘を鳴らす「ライデン宣言」を支持しており、批判派はブログ記事形式での発表がパブリケーションの信頼性や功績の帰属という慣行を損なうと主張している。ブログ投稿による発表を、査読を経た論文発表に代わるものとして数学コミュニティが受け入れるかどうかは依然として不透明だ。

今後の展望

Astraは、トランプ政権が計画している政府による安全性審査プロセスの下で、公開前に連邦の承認を必要とする初のモデルになるとみられている。今回の数学的成果がAstraの実用性を示す一例として扱われる一方、公開時期や審査プロセスの詳細は明らかになっておらず、モデルの正式リリースに向けた今後の動向が注目される。