概要
Anthropicは、自律的に脆弱性を発見・悪用できるとする未公開の最先端モデル「Claude Mythos Preview」を用いて、NISTが審査中の耐量子暗号署名方式「HAWK」の格子構造に潜む未知の脆弱性を発見したと発表した。専門家による2年間のレビューでも見逃されていたこの弱点は、格子理論における「非自明な自己同型」と呼ばれる未利用の対称性であり、鍵回復の難易度を実質的に半減させるものだった。この結果を受けてHAWKの開発チームは、同等のセキュリティ強度を保つにはパラメータサイズを倍にせざるを得ず競争力を失うと判断し、NISTの標準化プログラムから撤退した。Keyfactorのシニア副社長Ellen Boehm氏は「Anthropicによるこうした研究は、NISTのPQC評価プロセスが機能していることを証明している」と評価している。
HAWKの脆弱性発見のプロセス
HAWKは量子コンピュータ時代に備えた次世代デジタル署名方式として、NISTの第3ラウンド候補に残っていたアルゴリズムである。Mythos Previewは1人の研究者と協働し、マルチエージェントのワークフローを用いて文献レビュー・数学的推論・計算実験を組み合わせながら、約1週間かけて攻撃手法を開発した。その結果、小型版であるHAWK-256のセキュリティ強度は、想定されていた2^64から2^38まで低下することが判明した。開発にかかったAPI利用料は約10万ドルとされる一方、攻撃を最初から最後まで実装できたことから、この成果の検証は比較的容易だったという。
7ラウンドAES攻撃と「Möbius Bridge」
Mythos PreviewはHAWKとは別に、簡略化したAES-128の7ラウンド版に対しても新たな理論的攻撃を編み出した。当初モデルは「AES-128は最も研究し尽くされた暗号であり改善の余地はない」と判断していたが、研究者が「トップ研究者として振る舞ってほしい」と指示したところ、モデルは検証用のハーネス自体を書き直し、最終的に「Möbius Bridge」と名付けた新しいフィンガープリント手法を考案。従来の中間一致攻撃を200~800倍高速化することに成功し、この過程で約10億トークンを出力したという。ただしこの攻撃には約2^105個という現実には収集不可能な量の選択平文が必要であり、実運用で使われる10ラウンドの完全なAES-128には影響しない、あくまで理論上の成果にとどまる。Mythosが約1週間でこの攻撃を自律的に発見した一方、その正しさを検証するには人間の研究者2人がかりで約1か月を要しており、Anthropicは「AIによる計算コストよりも人間による検証こそが実質的なボトルネックになりつつある」と指摘している。
今後の展望
Anthropicはこのほかにも、Mythos Previewが軽量暗号LEAの13ラウンド攻撃(2^30未満)やSerpent-128の6ラウンド攻撃、Salsa20・Poseidon・SHA-1への部分的な改善など、複数の暗号方式で成果を上げたとしている。同社は学術機関と共同で暗号解析ベンチマーク「CryptanalysisBench」を開発したほか、責任ある開示手続きに則ってHAWK設計者やNIST、政府・産業パートナーと事前に協議を行った上で今回の結果を公開したという。専門家からは、AIが言語モデル登場からわずか数年で年単位の暗号解析を代替しうる水準に達したことで、世界中で十分な精査を受けていない暗号システムの再検証が急務になるとの指摘も出ており、今後は人間の検証能力がボトルネックとして顕在化していく可能性が高い。