概要
2026年7月28日、上海を拠点とする国有系企業が国産の浸漬型深紫外線(DUV)露光装置の量産を開始したとの報道をきっかけに、世界の半導体関連株が歴史的な急落に見舞われた。韓国市場では、サムスン電子が13.4%下落し同社にとって約20年ぶりの下げ幅を記録したほか、SKハイニックスも14.7%下落し、KOSPI指数は10.84%安と記録的な下落幅を記録した。翌29日以降も下落は止まらず、SKハイニックスは月内で4度にわたり10%を超える下落を記録するなど、混乱は複数日にわたって続いた。影響は韓国国内にとどまらず、ASML、エヌビディア、AMD、マイクロン・テクノロジーといった欧米の半導体大手や、キオクシア、村田製作所などの日本企業の株価も軒並み下落し、フィラデルフィア半導体指数は4.5%超、ナスダック総合指数も下落するなど、世界規模での売りが波及した。
中国製DUV露光装置の技術的詳細
株価急落の直接的な引き金となったのは、上海の露光装置メーカーAishengna Electronic Technology Groupが国産の浸漬型DUV露光装置の量産に着手したとの報道だった。同社は2026年内に5台、2027年には約20台の生産・出荷を計画しており、納入先にはSMIC(中芯国際)、Hua Hong Semiconductor、CXMT(長鑫存儲技術)といった中国国内の主要な半導体メーカーが想定されている。DUV露光装置は、米国主導の輸出規制によって入手が困難となった最先端のEUV(極端紫外線)露光装置に代わる技術として位置づけられるが、性能・効率の両面で世界最先端のEUVシステムには依然として大きく後れを取っているとされる。一方で、JPモルガンやサムスン証券のアナリストからは、これらの国産装置の性能や信頼性はまだ実証されておらず、市場の反応は過度な悲観(オーバーリアクション)だとの見方も示されている。
SKハイニックスの決算と株価の逆行現象
株価下落のタイミングは、SKハイニックスが過去最高となる四半期決算を発表した直後と重なった点も市場の注目を集めた。同社の2026年第2四半期決算は、営業利益60.54兆ウォン(前年同期比557%増)、純利益93.92兆ウォン(同1,242%増)、売上高79.32兆ウォン(同257%増)と軒並み過去最高を更新し、営業利益率は76%に達した。しかし、市場予想の売上高83.94兆ウォンには届かず、決算発表後のカンファレンスコールでも新たな株主還元策や業績ガイダンスが示されなかったことが投資家の失望を招いた。好決算にもかかわらず株価が下落するという逆行現象の背景には、AI関連投資の減速がメモリチップの供給過剰につながるのではないかという「AIピーク」懸念があり、中国のDUV量産報道がその懸念に追い打ちをかける形となった。同社はコモディティメモリの価格上昇鈍化やHBM(広帯域幅メモリ)への高い依存を認めつつも、下半期は上半期を上回る出荷増加とHBM4生産の大幅拡大を見込んでおり、AI投資減速リスクは否定している。
今後の見通し
今回の急落は、中国の半導体製造技術の進展が投資家心理に与える影響の大きさを改めて示した形だ。中国製DUV装置の実際の性能や量産の歩留まりは未検証であり、アナリストの間では今回の売りが行き過ぎであるとの指摘もある一方、日本・韓国メーカーにとっては中国メーカーの競争力向上という中長期的な圧力材料が増したことは確かだ。SKハイニックスは長期契約(LTA)を約10社と締結し価格変動への耐性強化を図るなど対応を進めているが、AI投資サイクルの持続性と中国の技術的自立という二つの不確実性が重なる中、半導体株のボラティリティは当面高い水準が続くとみられる。