概要
AIエージェントとツールを接続する標準プロトコル「Model Context Protocol(MCP)」が、2026年7月28日に確定予定の新仕様で大規模な刷新を迎える。最大の変更点は、これまでサーバー側で管理していたセッション状態の追跡を廃止し、状態情報を_metaパラメータやHTTPヘッダーといったワイヤプロトコル側に移す「ステートレス化」だ。MCPの仕様策定に携わるDavid Soria Parra氏は、この変更を「状態をサーバーからワイヤプロトコルへ移動し、帯域幅は無料と仮定する」設計思想だと説明している。HTTPヘッダーにルーティング情報を含めることで、JSON-RPC本体を検査せずにリクエストをルーティングできるようになり、クラウドネイティブな負荷分散環境への対応が容易になる。Parra氏はこの変更を「認可(authorization)機能の追加以来、最も実質的な変更」と位置づけている。
廃止・非推奨となる機能
ステートレス化と合わせて、いくつかの既存機能が廃止対象となる。LLMに補完生成を要求する「Sampling」機能は、セマンティクスが混乱を招きやすく実装も困難だったため廃止される。ファイルシステム上の位置を指定する「Roots」機能は利用範囲が限定的な「ニッチな機能」と判断された。ログ出力機能の「Logging」は仕様として過剰に冗長であるとされ、代わりにstderrやOpenTelemetryの利用が推奨される。これらの廃止機能は最低12ヶ月間は動作が残される猶予期間が設けられるものの、その間の相互運用性は保証されない。
新たな拡張フレームワークとMCP Apps
今回の刷新では、コア仕様とは別に機能を追加できる「拡張フレームワーク」も新設される。これにより、ドメイン固有の用途向けに実験的機能をコア仕様に組み込む前に検証したり、独立したリリーススケジュールで機能を展開したりできるようになる。この拡張の枠組みを使った公式拡張の一例が「MCP Apps」で、JavaScriptで構築したインタラクティブなアプリケーションを、従来のテキストや画像出力の代わりに提示できる。長時間実行される操作を管理する「Tasks」機能も、コア仕様からこの拡張の仕組みへと移行した。
背景と今後の影響
MCPはもともと、開発者がローカルマシン上で単純に使うことを想定したプロトコルとして設計された。しかし企業が本番環境のクラウド上で複数クライアントに対応させようとした結果、従来のセッション管理方式が「過度な複雑性と運用上の困難」を招くようになった。KubernetesのCo-Creatorであり、StacklokのCEOを務めるCraig McLuckie氏は、旧来のステートフルな設計を「ローカルツール向けの派生物」と表現している。企業が本番システムへのアクセス仲介にMCPを採用する中で、今回のステートレス化への転換は必要な進化だと報じられている。SDKを利用して実装している開発者にとっては比較的スムーズな移行が見込まれる一方、Parra氏は独自実装を構築した開発者に対し「これを正しく行うには膨大な作業が必要になる」と警告した。MCPは月間9,700万ダウンロード、1万以上のMCPサーバーが存在するまでに普及しており、今回の仕様変更による互換性問題が実装側に重くのしかかる可能性がある。