概要
ルーマニアの不動産登記を管轄する国家機関ANCPI(National Agency for Cadastre and Real Estate Advertising)が大規模なサイバー攻撃を受け、土地登記データベースとバックアップが完全に消去される事態が発生した。事件は2026年7月14日に公になり、セキュリティ企業KELAの分析により、攻撃者はアルジェリア・オラン出身の「Zakaria Mahdjoub」という人物で、ハッキングフォーラム上では「ByteToBreach」の名で活動していたと特定されている。攻撃者はANCPIから盗んだ内部文書、従業員の認証情報、ITネットワークの詳細などのデータを売りに出し、身代金を要求したが、当局がこれを拒否したため、システムとバックアップの両方を削除するに至った。この結果、公式アプリやウェブサイトが停止し、公証人による不動産取引の証明業務や、市民による所有権証明・登記書類へのアクセスができなくなり、国全体の不動産市場が一時的に機能停止に陥った。
攻撃の手口
攻撃者は「有効な認証情報(valid credentials)」を使ってANCPIのシステムに侵入したとされている。内部ネットワークを探索した後、まず身代金を要求し、これが失敗すると盗んだデータを完全に削除、さらにバックアップコピーを操作して復旧を妨害したという。攻撃者はハッキングフォーラムに挑発的なメッセージを投稿しており、当局への揺さぶりを図っていたことがうかがえる。被害範囲は土地登記データベース本体に加え、Eterraや RENNS といった主要システムのソースコードを保管していたGitLabサーバーにも及んだとされる。あるルーマニアのIT専門家は、この侵害が高度な国家支援型の攻撃ではなく、「2021年から未修正のCVE、無防備に開放された内部ネットワーク、極めて脆弱な管理者パスワード」といった、予防可能なシステム上の不備の積み重ねによって引き起こされたと指摘している。
被害の範囲と社会的影響
データベースの消去により、不動産の売買・登記に関わるほぼすべての業務が停止した。公証人は取引を証明できず、市民は所有権証明書や登記関連文書を取得できない状態となり、国全体の不動産市場が事実上マヒした。ANCPIは当初「技術的な問題」として説明していたが、後にサイバー攻撃であったことを認めた。
復旧に向けた対応
ANCPIは、IT基盤を「全面的に再構築中」であるとし、サイバーセキュリティの専門家と共に復旧作業を進めていると説明している。同機関は攻撃発生前から複数のバックアップコピーを保持しており、これにより冗長性とデータ復旧の手段が確保されているとした。実際にネットワークをゼロから再構築するとともに、オフラインで保管していたデータのコピーを用いて復元を進めているという。
今後の見通し
今回の事案は、重要な行政インフラであっても基本的なセキュリティ対策の不備が致命的な結果を招くことを改めて示した。専門家が指摘する「未修正の既知の脆弱性」や「脆弱な管理者パスワード」といった問題は、多くの公共機関に共通するリスクであり、オフラインバックアップの整備や認証情報管理の強化など、地に足の着いた対策の重要性が浮き彫りになっている。ルーマニア当局による完全復旧の完了時期や、攻撃者に対する法的措置の行方が今後の焦点となる。