概要
Googleは7月9日、Gemini基盤のコード最適化・アルゴリズム発見エージェント「AlphaEvolve」を、Google CloudのGemini Enterprise Agent Platform上で一般提供(GA)開始したと発表した。AlphaEvolveは、従来の手法では網羅しきれない広大な探索空間を系統的に探索し、人間のエンジニアが試みないような実装案を発見することで、半導体設計、物流、ゲノム解析、HPC、金融サービスなど幅広い領域の最適化問題を解決するツールとして位置づけられている。Google自身も、次世代TPUのシリコン回路レイアウトの最適化や、分散データベースSpannerのコンパクション処理におけるログ構造化マージツリー(LSM-tree)の圧縮ヒューリスティクス改善に活用しており、書き込み増幅を20%削減するなど自社インフラの効率化にも役立ててきた実績がある。
仕組みと導入プロセス
AlphaEvolveの利用は「Define(定義)→Measure(測定)→Optimize(最適化)→Apply(適用)」という4ステップで進む。利用者はまずベースラインとなるシードプログラムと、正確性やパフォーマンス、運用制約などを踏まえたスコアリング関数(評価スクリプト)を用意する。AlphaEvolveのAPIはこのシードプログラムに対して変異させた候補コードを生成し、クライアント側でその候補をコンパイル・テストして得たスコアをAPIにフィードバックする、というループを繰り返すことで徐々に優れた実装へと進化させていく。開発者はドキュメントサイトやGitHubリポジトリ(Google-Cloud-AI/alphaevolve-on-googlecloud)のColabサンプルから始められるほか、AntigravityやClaude CodeなどのIDE上でAlphaEvolve Skillとしてエージェント的なワークフローに組み込むことも可能で、Google Cloudコンソールから無料トライアルで試せる。
企業導入事例
GA開始にあわせて、多様な業界での導入事例も紹介された。化学大手BASFはサプライチェーンのデジタルツインを構築し既存モデルの精度を80%以上改善、ECサイトのCoolblueは28日間の需要予測パイプラインを自動最適化しWMAPE(加重絶対誤差率)を5%以上改善した。物流企業FM Logisticは倉庫内ルーティングを10.4%効率化し走行距離を15,000km以上削減、金融サービスのKlarnaは再現性の制約が厳しい環境下で機械学習トレーニングパイプラインのスループットを2倍に高めた。創薬・分子シミュレーションのSchrödingerは分子発見速度を4倍に高速化し、サプライチェーン管理のKinaxisは予測精度を22%以上改善しつつランタイムを90%以上短縮するなど、成果は業界を問わず多岐にわたる。このほかJetBrainsのIDEパフォーマンス最適化(15〜20%高速化)や、量子コンピューティング企業Qbraidによるエラー訂正符号の改良、NVIDIA AI Configuratorを用いるPebbleのGPU推論サーバーでのエラー56%削減なども報告されている。
今後の展望
Google Cloudのチーフサイエンティストで、Google DeepMindのサイエンス担当バイスプレジデントも務めるPushmeet Kohli氏は、「AIは単なる生産性向上ツールから、達成可能な成果を拡大する発見エンジンへと進化している」と述べ、AlphaEvolveのようなツールが複雑な計算探索空間を自律的に探索することで、研究者やエンジニアの直感を補うブレークスルーの発見を後押ししていると強調した。Googleは、TPUやSpannerといった自社インフラの最適化に加え、自然災害リスク予測や量子コンピューティングなどの科学研究領域、金融・半導体・製造業といったエンタープライズ領域でも、すでにAlphaEvolveの活用が広がっていることを紹介した。