概要

元Heap CEOのMalcolm Matis氏は7月9日、個人プロジェクトとして開発しているPostgreSQLのRust書き直し「pgrust」が、PostgreSQL 18.3の回帰テスト4.6万件以上に全件パスし、さらに分離テストにも合格したことを発表した。pgrustはPostgres 18.3との完全互換を目標としており、既存のPostgres 18.3のデータディレクトリからそのまま起動できるディスク互換性も実現している。この発表はHacker Newsで740ポイント超・620件超のコメントを集める大きな反響を呼び、AIコーディングエージェントによる大規模ソフトウェアの書き換えがどこまで実用的かを示す事例として注目されている。

開発手法

pgrustの最大の特徴は、その開発プロセスにAIコーディングエージェントを大々的に活用していることだ。Matis氏はJason Seibel氏と共同で、8体の並列AIコーディングエージェント(Codex)を運用し、月額約1,600ドルのコストをかけて開発を進めた。並列セッションの調整には「Conductor」というツールを用い、10〜20個のセッションを同時に走らせることで、4月末までに45万行以上のRustコードを生成したという。

技術的な詳細

アーキテクチャ上の大きな変更点は、従来のPostgresが採用していたプロセス単位の接続モデルから、スレッド単位の接続モデルへの移行だ。これによりメモリ安全性の向上や接続数上限の問題解消が見込まれるが、Matis氏自身は「一つの接続でのクラッシュが他の接続に影響を及ぼす可能性がある」という新たなリスクも認めている。未発表のベンチマークでは、トランザクション処理でPostgres本体より約50%高速、分析ワークロードでは約300倍高速という主張もされているが、Matis氏は「v0.1は本番環境での使用には対応しておらず、パフォーマンス最適化も未実施」と明言しており、既存のPostgres拡張機能とも互換性がない段階にとどまる。ブラウザ上で動作を確認できるデモがpgrust.comで公開されており、ソースコードはGitHub上で公開されている。

反響と今後の展望

Hacker Newsでの反響は大きく、740ポイント超・620件超のコメントが寄せられた一方、fsyncの設定条件やClickHouseとの比較の妥当性について懐疑的な意見も多く出ている。OrioleDBの開発者であるBen Dicken氏は「まだ基準に達していない」と指摘するなど、成果の評価には慎重な声も少なくない。開発チームが掲げる目標は「Postgresの内部を変更しやすくすること」であり、Postgres本体の挙動を正解(oracle)としながらRustでコードベースの作業性を高め、AI支援プログラミングによってサーバーのより深い部分への変更を探求していく計画だとしている。