概要
国連が主催する初の「AIガバナンスに関するグローバル対話」が7月6日、スイス・ジュネーブで開幕した。「グローバル・デジタル・コンパクト」に基づいて設立されたこの枠組みには、各国政府、テック企業、研究者、市民社会が参加し、7日までの2日間にわたってAIの安全性、説明責任、アクセス格差、能力構築、国際協調といったテーマを議論する。開幕演説に立ったグテーレス国連事務総長は、AI技術そのものに人類の未来を「vibe-code」させてはならないと述べ、各国に国際的なガバナンス体制の構築を急ぐよう呼びかけた。
グテーレス事務総長の警告と提言
グテーレス氏は、AIが「暴走的な速度」で進化する中、「私たちの社会そのものを対象に、計画も同意もないまま実験が行われている」と警告した。AIシステムがコードを書き、オンラインで行動し、人間の監視がますます及ばない形で意思決定を下すようになっている一方、既存の国際機関は「命令に従う機械」を統治するために作られたものであり、「自ら判断する機械」に対応できていないと指摘した。その上で同氏は、子どもがアクセスできるAIシステムの安全性を企業に証明させる「AI子ども安全プレッジ」の導入、途上国のAI能力構築を支援する「グローバルAIファンド」の創設、2030年までにデータセンターを再生可能エネルギーで稼働させることによるAIの気候影響の低減、という3つの優先課題を提示した。
科学者パネルの評価とAI格差への懸念
対話には、チューリング賞受賞者でUN独立国際科学パネルの共同議長を務めるヨシュア・ベンジオ氏や、共同議長のマリア・レッサ氏も出席した。ベンジオ氏は「AIの能力が今後も向上し続けた場合、それが破滅的な被害をもたらさないという科学的な保証は現時点では存在しない」と述べ、安全策の整備が技術の進歩に追いついていない現状に警鐘を鳴らした。レッサ氏は偽情報の拡散を「情報のアルマゲドン」と表現し、恐怖や怒り、憎悪を含んだコンテンツをAIが拡散すると、それが爆発的に広がってしまうと指摘した。同パネルが7月1日に公表した初の報告書も、「AIの能力は科学的理解や各国政府の対応能力を上回るスピードで進歩しており、深刻または破滅的な被害のリスクは今なお排除できない」と結論づけている。加えて、AI開発が米国と中国に集中している現状についても懸念が示され、先進国と巨大テック企業がインフラ・データ・投資・専門知識の大部分を握る一方、途上国は海外のモデルやプラットフォームへの依存を強いられるリスクがあるとされた。
今後の展望
グローバル対話は、並行して開催されている「AI for Good グローバルサミット」やWSISフォーラム2026とも連携しながら進められる。今回の対話では拘束力のある合意には至らないものの、国連は各国・企業・市民社会が共通の指針を持てる「普遍的なガードレール」の策定を目指す方針を示しており、今後の国際交渉の土台になるとみられる。193の加盟国が参加する枠組みとして、AI規制を巡る多国間協調がどこまで実効性を持つかが今後の焦点となる。