概要

進行中の裁判の記録として公開されたメールのやり取りから、AnthropicのCEOダリオ・アモデイ氏と国防総省高官の間で交わされた交渉の詳細が明らかになった。争点はClaudeへのアクセス権そのものではなく、完全自律型兵器システムと国内監視へのAI利用をどこまで制限するかという「使い方の線引き」だった。交渉は関係者いわく「非常に近い」段階まで進んでいたとされるが、最終的に決裂し、国防総省はAnthropicをサプライチェーンリスク企業として指定するに至った。

対立の経緯

メールによれば、アモデイ氏は一貫して2つのレッドラインを譲らなかった。すなわち、完全自律型兵器システムへのClaude利用の禁止と、国内監視へのClaude利用の禁止である。これに対し、国防総省で研究開発を統括するエミル・マイケル次官は「すべての合法的な用途」という広い枠組みでの利用許可を求めた。米国法は一定の条件下で国内監視を認めているため、この表現は事実上、アモデイ氏が設けた制限を無力化するものだった。

1月にいったん交渉が途絶えた後、マイケル氏は関係修復を期待するメールを送ったが、アモデイ氏は従来の立場を繰り返した。マイケル氏はAnthropicのガードレールについて「まったく機能しない」と述べ、アモデイ氏側の契約文言が「レッドラインを完全に削除するものだ」と指摘。その翌日、ピート・ヘグセス国防長官がAnthropicをサプライチェーンリスク企業に正式指定し、対立は法廷闘争へと発展した。

利益相反の疑惑と専門家の反応

マイケル次官の資産公開資料からは、Anthropicの競合であるxAIの株式を保有していたことが判明しており、今回の措置が報復的なものではないかとの疑念が持ち上がっている。国防総省関係者だった元高官はこの指定を「馬鹿げている」と断じ、「Claudeを国家安全保障に不可欠だとしながら同時にセキュリティリスク企業と呼ぶのは、懲罰的を通り越していじめに等しい」と批判した。ITIF(情報技術イノベーション財団)のダニエル・カストロ氏も、規制権限を懲罰目的で使うことが技術業界全体に萎縮効果をもたらしかねないと警鐘を鳴らしている。またCivic AIのルーカス・ハンセン氏は、モデルからガードレールを取り除くには訓練段階からの根本的な作り直しが必要であり、単純なオン・オフの切り替えではない点を指摘し、この要求が軍事用途に限らずClaude全体に影響しうることを説明した。

訴訟と現在の状況

サプライチェーンリスク指定を受けてトランプ大統領は連邦政府機関に対し6カ月以内にAnthropic製品の利用を停止するよう指示し、ヘグセス長官はこの決定を「最終的なもの」と述べた。これに対しAnthropicは提訴に踏み切り、連邦地裁は当初Anthropicの主張を認めて仮差止命令を発令したが、控訴裁判所は仮差止めの停止を認めず、地裁の判断を覆した。訴訟は現在も継続中であり、AI企業と国防総省との関係のあり方、そして軍事AIの利用制限を巡る前例として今後の展開が注目される。