概要
中国のフードデリバリー大手Meituan(美団)が、1.6兆パラメータの大規模言語モデル「LongCat-2.0」をMITライセンスでオープンソース公開した。最大の特徴は、5万個を超える中国国産ASIC(半導体)のみで構成されたクラスタ上で、事前学習から推論までのエンド・ツー・エンドを完結させた初のフロンティア級モデルである点だ。Nvidia製プロセッサを一切使用していないにもかかわらず、コーディングやエージェントタスクでGPT-5.5に匹敵、あるいは上回るベンチマーク成績を記録しており、米国の対中半導体輸出規制の実効性に改めて疑問を投げかける結果となった。
技術的な特徴
LongCat-2.0は混合エキスパート(MoE)アーキテクチャを採用し、総パラメータ数1.6兆に対し、実際に処理へ動員されるのはクエリの複雑さに応じて33億〜56億(平均約48億)パラメータのみという効率設計になっている。長文コンテキストへの対応として「LongCat Sparse Attention(LSA)」と呼ばれる効率的なアテンション機構を実装し、最大100万トークンのコンテキストウィンドウを処理できる。また、語彙表現能力を約100倍に拡張する独自のN-gram埋め込みシステムにより、「New York City」のような複合フレーズを単一概念として扱えるのも特徴だ。さらに、エージェント・推論・インタラクションの3種類に特化したモジュールをリクエスト内容に応じて組み合わせるマルチ専門家ルーティングも採用している。
ベンチマークでは、ソフトウェアエンジニアリング能力を測るSWE-Bench Proで59.5を記録し、GPT-5.5の58.6を上回った。このほかTerminal-Bench 2.1で70.8、SWE-Bench Multilingualで77.3のスコアを達成しており、コーディング・エージェント系タスクで近フロンティア級の性能を示している。学習面では35兆トークンを超える事前学習を、ロールバックや回復不能な損失スパイクなしに完走させたとされ、大規模クラスタの安定運用にも成功したことになる。
「Owl Alpha」として密かに躍進していたOpenRouterでの実績
今回の正式発表以前、LongCat-2.0は「Owl Alpha」という匿名名義で約2か月間OpenRouter上に密かに公開されていた。この間、月間呼び出し量ベースでHermes Agent利用で1位、Claude Code利用で2位、OpenClaw利用で3位を記録するなど、開発者コミュニティで気づかれないまま高い支持を集めていたことが今回判明した。API価格も競争力があり、標準料金は入力100万トークンあたり0.75ドル、出力100万トークンあたり2.95ドル(プロモーション価格ではそれぞれ0.30ドル、1.20ドル)で、キャッシュされたコンテキストの読み込みは無料としている。比較として、GPT-5.5は入出力それぞれ5ドル/30ドル、Claude Sonnet 5は2ドル/10ドルとされており、性能に対して大幅に安価な価格設定となっている。
背景と米中半導体競争への影響
Meituanは2010年に王興(ワン・シン)が創業し、中国国内の宅配・生活サービス「スーパーアプリ」市場を主導してきた企業だ。近年はコア事業の利益成長が鈍化する中、AI・半導体技術への数十億ドル規模の投資を表明するなど、技術領域への戦略転換を進めている。LongCat-2.0が中国国産チップのみで開発・運用された事実は、米国が主導するNvidia製先端半導体の対中輸出規制にもかかわらず、中国企業が自国製チップスタックだけでフロンティア級AIモデルを構築できる段階に達しつつあることを示すものだ。今後、他の中国AI企業も同様の「脱Nvidia」戦略を追随する可能性があり、米中間の半導体・AI覇権競争における力学に影響を与える展開として注目される。