概要
Rocket Lab USAは2026年6月29日、衛星通信大手Iridium Communicationsを現金・株式の混合対価で買収する確定合意を締結したと発表した。1株あたり54ドル(現金27ドル+Rocket Lab株式相当分)を支払うもので、エンタープライズバリューは約80億ドルに達する。Rocket Lab株は発表を受けて約9%上昇、Iridium株は約20%急騰した。取引の完了は2027年中盤を予定しており、米連邦通信委員会(FCC)のライセンス移転承認、ハート・スコット・ロディノ法(HSR)に基づく独禁当局の審査、およびIridium株主の承認が条件となる。
Rocket LabのCEOであるピーター・ベック卿は「Iridiumが持つ深い歴史、信頼されたインフラ、そして高く評価されるスペクトラムと、Rocket Labの豊富で実証済みの打ち上げ・製造能力を融合させることで、まったく新しい市場を開拓できる」と述べた。IridiumのCEOマット・デッシュ氏も「最先端の統合宇宙企業の一員として、顧客のために次世代の機能を加速させる」と歓迎した。
取引の条件と資金調達
買収対価は1株27ドルの現金に加え、Rocket Lab株を交付するハイブリッド構成だ。株式対価の換算レートはRocket Labの10日間出来高加重平均株価(VWAP)を基準とするカラー方式が採用されており、67.50ドルから112.50ドルの範囲内で調整される。買収総額の資金調達に際し、Rocket Labはドイツ銀行とウェルズ・ファーゴから36億ドルの364日物シニア担保付きブリッジタームローン枠を確保。残余分はRocket Lab自身の手元資金と追加の負債・株式調達で賄う計画だ。
IridiumのネットワークとGlobalスペクトラム
Iridiumは低軌道(LEO)に66基の衛星コンステレーションを運用しており、海上・航空・政府・IoT向けに極地を含む地球全域をカバーする唯一無二のグローバル衛星通信ネットワークを持つ。2025年実績では年間売上8億7,170万ドル、営業EBITDA(OEBITDA)は4億9,500万ドル(利益率57%)と高い収益性を誇り、アクティブ加入者数は約255万人に達する。Rocket Labが特に注目するのは、既存の3GPP非地上ネットワーク(NTN)規格への対応が進むIridiumのグローバルLバンドスペクトラムだ。このスペクトラムはゼロから取得することが事実上不可能な希少資産であり、直接端末間通信(Direct-to-Device: D2D)や次世代測位サービスへの展開を可能にする。
SpaceX Starlinkへの対抗と宇宙通信市場の再編
本買収はSpaceXのStarlinkが衛星通信市場を席巻するなか、対抗勢力の結集という文脈でも読み解ける。Starlinkは2026年3月末時点で約1,030万の加入者を擁し、SpaceXの2025年通信セグメント売上は114億ドルに達したとされる。一方、2026年4月にはAmazonがGlobalstarを116億ドルで買収し、独自の衛星インターネットサービス「Project Kuiper」を強化する動きに出た。今回のRocket Lab×Iridiumの統合は、打ち上げ能力を内製化することで衛星交換・コンステレーション拡張のコストと依存性を大幅に削減し、単なる通信会社ではなく「設計・製造・打ち上げ・運用」のすべてを一手に担う垂直統合型宇宙企業という新たなビジネスモデルを業界で初めて実現しようとする試みだ。
今後の展望
統合後の企業は次世代IridiumコンステレーションをElectronロケットとNeutronロケットで自社打ち上げすることで外部打ち上げコストを排除し、直接端末間通信(D2D)、海事・航空IoT、防衛・緊急対応向けサービスを拡充する計画だ。米宇宙軍との既存の基盤保全契約も引き続き履行する。IridiumのスペクトラムとRocket Labの製造スケールが組み合わさることで、SpaceXに対して独自の競争ポジションを構築できると両社は見ており、宇宙通信産業の競争地図を大きく塗り替える一手として市場から高い注目を集めている。