概要
Microsoftは2026年6月18日、TypeScript 7.0のリリース候補(RC)を公開した。最大の変更点は、コンパイラを従来のTypeScript(自己ホスト型)からGoで書き直したことにある。「Project Corsa」と呼ばれるこのプロジェクトは、既存の型チェックセマンティクスを保ちながら移植(再設計ではなく)を行い、ネイティブバイナリの実行速度(3〜4倍)と、Goのゴルーチンによる共有メモリ並列処理(2〜3倍)を組み合わせることで、最大10倍超の高速化を達成した。Bloomberg、Figma、Google、Slack、Vercelなど複数の大規模チームが同様のスピードアップを報告している。
パフォーマンスの改善
パフォーマンス向上の数値は顕著だ。約150万行のコードを持つVS Codeリポジトリでは、ビルド時間が77.8秒から7.5秒へと10.4倍高速化された。エディタのプロジェクト読み込みは9.6秒から1.2秒へ8倍改善し、メモリ使用量はおよそ半減した。言語サーバーの信頼性も20倍以上向上し、失敗件数が大幅に減少している。インストールは npm install -D typescript@rc で行えるほか、VS Code向けの「TypeScript Native Preview」拡張機能から即座に利用できる。
GoをRustではなく採用した理由
言語選定においてGoとRustが候補に挙がったが、TypeScriptコンパイラが内部で持つ抽象構文木(AST)とシンボルテーブル間の循環参照がRustの所有権モデルと相性が悪く、大幅な構造変更なしには実現できない状況だった。一方、ガベージコレクションを持つGoは既存のアーキテクチャに自然にマッピングでき、型チェックのセマンティクスを維持したまま約1年でのポートを可能にした。
新機能と並列処理フラグ
7.0では並列処理を制御する3つの新しいコンパイラフラグが追加された。--checkers N(デフォルト: 4)は型チェッカーの並列ワーカー数、--builders N(デフォルト: 16)はプロジェクト参照の並列ビルド数を制御し、--singleThreaded はデバッグやリソースが限られたCI環境向けに並列処理を無効化する。--watch モードはParcelのファイルウォッチャーをGoに移植したものを使用しており、ポーリングベースの従来実装に比べてリソース効率が大幅に向上した。
破壊的変更と移行上の注意点
TypeScript 5.xから移行するチームは tsconfig.json の見直しが必要になる。主な変更点は、rootDir のデフォルトが ./ になった(src/ を使うプロジェクトは明示的に設定が必要)、types のデフォルトが空配列になり @types/ パッケージの自動インクルードがなくなった点などだ。また、target: es5 や moduleResolution: node、baseUrl、AMD/UMD/SystemJS形式のモジュールは削除されている。テンプレートリテラル型の推論では絵文字がUTF-16サロゲートペアではなく1コードポイントとして扱われるようになった。
重要な制約として、typescript-eslintやts-morphなどのツールが依存するプログラマティックAPIの安定化はTypeScript 7.1を予定しており、「少なくとも数か月先」とされている。そのため現時点では tsc CLIとCI型チェックに7.0を使いながら、typescript-eslintなどのツールは npm install -D typescript@npm:@typescript/typescript6 でインストールした6.0のエイリアスを維持する段階的な移行が推奨される。GA版は今後約1か月以内のリリースが見込まれている。