概要
2026年6月18日、ボストン小児病院マントン希少疾患研究センター、ハーバード大学、OpenAIの共同研究チームが、OpenAIのo3 Deep Researchモデルを活用した希少疾患診断支援に関する論文を医学誌『NEJM AI』に発表した。研究では、標準的な臨床検査と遺伝子解析を経ても診断がつかなかった376件の小児患者の匿名化ケースを対象にAIによる再解析を実施。専門家によるレビューと追加検査・臨床確認を経て、最終的に18件(4.8%)の新たな診断確定に至った。疾患カテゴリ別の診断率は、神経発達障害が10%、希少神経筋疾患が6.6%、早発性精神症が13.3%、小児突然死が1%となっている。
研究手法とAIの役割
研究チームはo3 Deep Researchモデルに、標準化された表現型情報(フェノタイプ)、臨床ノート、フィルタリング済み変異テーブルを含む匿名化患者パケットを入力した。モデルは既存のゲノムパイプラインの上に「説明優先の推論レイヤー」として機能し、臨床的特徴・遺伝形式・遺伝子変異・科学文献を統合して、エビデンスに基づく診断仮説を生成した。重要なのは、モデルが直接診断を下したのではないという点だ。モデルが提示した候補仮説はすべて専門医が独立してレビューし、CLIA認定検査機関での検証とACMG(米国医療遺伝学会)の分類基準を満たしたケースのみが診断確定として計上された。
医療AIとしての意義と限界
この研究が示す意義は数字以上のものがある。4.8%という成果は、「これ以上の治療法はない」と告げられていた家族にとって、10年以上待ち続けた診断を意味する。研究者らは、AIが提供する仮説生成能力によって専門医が個々のケースに費やせる時間の制約を補える可能性を指摘しており、過去の未解決ケースを定期的にAI再解析するアプローチがスケーラブルな手段になりうると論じている。
一方で研究には重要な限界もある。偽陽性率や下流の臨床負担は不明であり、ケースが事前に整理・匿名化されたものであるため、実際の臨床現場の煩雑なデータとは異なる。また、機関側にポジティブな結果を発表するインセンティブが働くことも考慮する必要があり、標準的な臨床実装には独立した再現研究が求められる。今回の成果はあくまで専門家主導ワークフローにおけるAIの補助的役割を示す概念実証であり、臨床意思決定の代替ではなく補完ツールとしての位置づけが強調されている。