概要

米商務長官ハワード・ラトニックが、オランダの半導体製造装置メーカーASMLの幹部に対し、輸出規制の対象となっている最先端のEUV(極端紫外線)露光装置が中国に持ち込まれた可能性があるとの懸念を直接伝えたことが明らかになった。EUV装置はトランプ第1次政権時代から中国への輸出が禁じられており、今回の疑惑は米中間の半導体輸出規制をめぐる緊張を再び高める形となっている。ASMLはこれに対し、中国にEUV装置を出荷した事実は一切ないと強く否定している。

EUV技術の戦略的重要性

EUV露光装置は「地球上で最先端の半導体パターンを描画できる唯一のツール」とされており、ASMLがこの技術を独占している。同社は約20年をかけてEUV光源の生成という核心課題を解決し、現在の独占的地位を築いた。技術の約80%は既存の知識を基盤としているが、EUV光そのものを生成する部分だけで20年の開発期間を要したとされる。ASMLはヨーロッパで最も時価総額の高い上場企業の一つで、その評価額はおよそ7,000億ドルに達する。

ASMLの反論と管理体制

ASMLは疑惑を全面否定し、「自社が出荷したすべての装置を追跡管理しており、それらは顧客のもとで稼働中か、解体されて返却済みだ」と説明した。同社はEUVへのアクセス権を持つ従業員と中国拠点のスタッフを社内で分離するファイアウォールも設けている。一方、米政府側は証拠が存在すると主張しているものの、その内容をASMLや報道機関に開示していない。

ASMLは中国に対して旧世代のDUV(深紫外線)露光装置を合法的に販売しており、これが2026年の売上予想の約20%を占める見込みだ。CEOのクリストフ・フーケは、中国向け販売を「搾取」ではなく「戦略的な保護措置」と位置づけているが、米議会では与野党超党派でASMLのDUV装置も含む対中輸出を全面禁止する法案が検討されている。

背景と今後の動向

この問題は、米国が半導体サプライチェーンにおける対中依存を戦略的リスクと捉え始めた流れの中に位置する。米商務省はEUV代替技術を開発するスタートアップ「xLight」に1億5,000万ドルを投資しており、ピーター・ティールが支援する「Substrate」も別のEUV代替技術を追求している。ASMLの独占が崩れれば装置コストの低減が期待できる一方、中国が独自のEUV技術を確保するリスクも高まることから、米国は輸出規制の強化と国内代替技術の育成を並行して進める姿勢を示している。今回の疑惑の真偽と米政府が持つとされる証拠の内容が、今後の米蘭間および米中間の半導体政策に大きな影響を与える可能性がある。