概要
Amazon Web Services(AWS)は2026年6月10日、次世代カスタムCPU「Graviton5」を搭載したEC2インスタンス「M9g」および「M9gd」の一般提供(GA)を開始した。Graviton4比で総合計算性能が25%向上したほか、Webアプリケーション・機械学習推論で35%、データベース処理で30%の高速化を達成している。ネットワーク帯域は15%、ストレージ帯域は20%それぞれ増加しており、エージェント型AIや高並列ワークロードを念頭に置いた設計となっている。
Meta、Uber、Snowflakeといった主要企業がすでに採用を表明しており、Metaは「数千万コア規模」のGraviton5展開を計画していると報告されている。AWSによれば、現時点で12万社以上の顧客が過去世代のGravitonベースのインスタンスを利用しており、同プラットフォームへの移行需要は引き続き高い。
技術仕様
Graviton5は1チップあたり192コアを搭載し、DDR5メモリおよびPCIeをサポートする。L3キャッシュ容量は前世代比5倍に拡大し、各コアのキャッシュアクセス量は2.6倍に増加した。これによりキャッシュミスに起因するレイテンシが大幅に削減され、データベースやインメモリ処理系のワークロードで特に恩恵を受ける。
NVMe SSDストレージを搭載するM9gdバリアントは最大11.4TBのローカルストレージを利用可能で、高I/O性能が要求される分析・AIトレーニング用途に向いている。両インスタンスタイプともAWS Nitro Cardによるネットワーク・ストレージのオフロード機構を搭載している。
Nitro Isolation Engineと形式検証
今回の発表で注目を集めたもう一つのトピックが「Nitro Isolation Engine」だ。AWSは定理証明器Isabelle/HOLを用いた形式検証(Formal Verification)によって、同一物理ホスト上のVM間の完全なメモリ・I/O分離を数学的に証明できると発表した。従来の侵入テストやファジングといった動的検証手法では発見が難しいエッジケースまでカバーできる点が特徴で、マルチテナント環境におけるセキュリティ保証の新たな水準を示すものとして業界から注目されている。
今後の展望
Graviton5の投入により、AWSはx86系インスタンスに対するコストパフォーマンス上の優位性をさらに強化する見込みだ。エージェント型AIの普及に伴い、大量の並行リクエストを低レイテンシで処理できる大コア数・大キャッシュ構成のインスタンスへの需要は今後も高まると予想される。形式検証ベースのセキュリティ証明はNitroシステム全体に展開される可能性があり、クラウドセキュリティの標準的アプローチとして他社にも影響を与えることが期待される。