概要
共和党のJay Obernolte下院議員(カリフォルニア州)と民主党のLori Trahan下院議員(マサチューセッツ州)は2026年6月4日、「Great American Artificial Intelligence Act of 2026」と題した269ページに及ぶ超党派AI規制法案の討議草案(discussion draft)を公開した。この法案は、連邦レベルで統一されたAIガバナンスの枠組みを確立することを目的としており、AI開発から展開・利用に至る幅広い領域を対象としている。現時点では正式な法案提出前の草案段階であり、パブリックコメントを受け付けている。
主要条項
法案の核心は**連邦による州法先占(preemption)**にある。AI「モデル開発」を対象とした州独自の規制について、3年間の連邦先占を定め、各州がバラバラに規制を設けることを一時的に禁止する。一方、雇用・医療・消費者保護などの重要分野におけるAIの「展開・利用」については、引き続き州が規制権限を保持する。この仕組みにより、技術開発段階での統一基準を確保しながら、具体的な応用場面での柔軟な地域対応を残す設計となっている。
資金面では、バイデン政権下のAI安全研究所を改組した「AI標準・イノベーションセンター(Center for AI Standards and Innovation)」に年間1億ドルを配分する条項が盛り込まれた。商務長官Lutnick氏のもとで運営される同センターは、AIの安全基準策定や技術研究を担う中核機関として法的に位置付けられる。また、AI悪用を想定したサイバーセキュリティ強化策として、2035年までのサイバーセキュリティ情報共有法(CISA)再承認も含まれている。さらに、AI導入が労働市場に与える影響を評価する「労働影響アセスメント」の義務化や、AI分野のR&D投資の優先事項を新たに定める条項も設けられている。
業界・政治的反応
テクノロジー業界団体はこの法案を概ね歓迎している。現在、各州が個別にAI規制を整備しており、企業は州ごとに異なるルールへの対応を迫られている。統一された連邦基準は、こうした規制の断片化を解消し、コンプライアンスコストの削減につながると評価されている。一方、批判的な立場からは、州法先占条項が州政府によるAI説明責任メカニズムを骨抜きにするとの懸念が示されている。
今後の見通し
本法案はあくまで「討議草案」であり、正式な議会への提出はパブリックコメントを踏まえた修正後となる見通しだ。近年、欧州でAI法(EU AI Act)が成立したほか、米国内でも複数の州が独自のAI規制を相次いで導入しており、連邦レベルでの包括的なAI規制整備への機運が高まっている。超党派による共同提案という点は政治的な前進を示すものだが、州の権限を制限する先占条項をめぐる議論は、今後の審議過程でも大きな争点となることが予想される。