40年続くClos構成の限界

AWSはほぼすべての新規非GPUデータセンターにおいて、数十年にわたりデータセンターネットワークを支配してきた階層型Clos(ファットツリー)構成を廃止し、ランダムグラフ理論に基づく「Resilient Network Graphs(RNG)」を標準アーキテクチャとして採用した。AWS ネットワークエンジニアリング担当 VP の Matt Rehder 氏は「従来のアプローチは収穫逓減の局面に入っており、状況を大きく変える新しい何かが必要だった」と語っており、スケールアップのたびに事前に大量の機器を展開しなければならない構造的問題が限界を迎えていた。

RNG の理論的根拠は 2012 年の「Jellyfish」研究論文にまで遡る。ランダムグラフ型インターコネクトが経路多様性を最大化し、負荷を均等に分散しつつ障害に対しても緩やかに劣化するという優位性が示されていたが、複雑な配線管理と大規模運用における課題から実用化が長年阻まれていた。AWS のサイエンティスト Dr. Giacomo Bernardi は「ランダムグラフトポロジーは理論上最適なルーティングを実現し、経路多様性を最大化しながら障害時に緩やかに劣化する」と述べており、AWSは独自の技術革新によってその障壁を突破した。

RNG を支える2つの技術革新

RNG の実用化を可能にした核心は、AWS が独自開発した2つのコンポーネントにある。

ShuffleBox は光配線を物理的に整理しながら、内部で準ランダムな接続性を維持する光学デバイスだ。大規模データセンターにおける配線の複雑さという最大の障壁を解決し、運用上の管理負担を抑えながらランダムグラフの恩恵を享受できるようにした。

Spraypoint はグラフトポロジー上でのトラフィック分散を管理するルーティングプロトコルで、ルーターが膨大な転送状態を保持する必要をなくす設計になっている。この組み合わせにより、ネットワーク集約ルーターを 69% 削減 しながら スループット 33% 向上消費電力 40% 削減 を同時に実現した。削減された機器スペースはそのままサーバーラックへ転換でき、計算リソースの密度向上にも直結する。

なお RNG の適用対象はコンピュート・ストレージ・データベース・AI 推論など非 GPU 系インフラに限定されており、GPU クラスター向けには引き続き UltraServer(Trainium 向けの UltraCluster)アーキテクチャが使用される。

業界への影響と今後の展開

Dell’Oro Group のアナリスト Sameh Boujelbene 氏はこの転換を「40 年間続いてきた硬直した Clos/ファットツリーの設計図を打ち砕く、大規模な構造的パラダイムシフト」と評した。RNG のフラットなアーキテクチャは需要に応じた段階的なスケールアウトを可能にし、従来のように需要予測に基づく大量先行投資が不要になる点も大きなメリットだ。

現時点でスペインとドイツのリージョンで稼働中であり、グローバル展開が進められている。AWSがハイパースケールの本番環境でランダムグラフ理論を検証済みの実績として示したことで、他のクラウドプロバイダーやデータセンター事業者への波及効果も注目される。