概要
2026年5月20〜22日にミュンヘンで開催されたKotlinConf 2026の基調講演では、言語誕生から15周年を迎えたKotlinの最新動向が多数発表された。Kotlin 2.4.0のプレビュー機能、AIエージェント向けフレームワークKoog 1.0の正式安定版リリース、Compose Multiplatform 1.11.0のリリースおよびWebプラットフォームのBeta到達が主な発表として挙げられる。決済システムや機内エンターテイメント、税務申告など幅広い分野でKotlinが活用される現在、AI駆動開発の普及とともに言語設計の信頼性がより重要になっているとJetBrainsは強調した。
Kotlin 2.4.0の新機能プレビュー
Kotlin 2.4.0では、コンテキストパラメータと明示的バッキングフィールドの2機能が安定化される予定だ。コンテキストパラメータはAPIの表現力を高め、明示的バッキングフィールドはボイラープレートコードを削減するものとなっている。また実験的機能として多フィールド値クラスが導入される。値クラスはプロパティのみで定義され、equals()・hashCode()・toString()が自動生成される仕組みだ。ツールチェーン面では、Kotlin Language ServerがAlphaに昇格しVisual Studio Code公式拡張として利用可能になったほか、機械可読なドキュメント配布を実現するkdoc.jar形式も導入される。Kotlin/Nativeのビルド時間はバージョン2.2から2.4にかけて25%短縮される見込みで、パフォーマンス改善も引き続き進んでいる。
AIエージェント開発への注力:KoogとAnthropicとの協業
今回の発表で特に注目を集めたのが、KotlinネイティブのAIエージェントフレームワークKoog 1.0の正式安定版リリースだ。Mercedes-Benzがすでに車両保守支援エージェントの構築に活用するなど、実用段階に入っている。JetBrainsはAI開発ツールの整備にも力を入れており、IDEとコーディングエージェントの通信規格**Agent Client Protocol (ACP)**の策定を主導。複数LLMプロバイダに対応するコーディングエージェント「Junie」と、複数エージェントをGit worktreeやDockerコンテナで並列実行できる環境「JetBrains Air」も紹介された。さらにAnthropicとの協業として、AnthropicがKotlinで公式JVM SDKを開発し、Claude CodeがIntelliJ IDEAにネイティブ統合された。Kotlin SWE-benchでは86.4%の解決率を達成している。
Compose Multiplatform 1.11.0とマルチプラットフォーム展開
Compose Multiplatform 1.11.0では、iOSのネイティブテキスト入力(実験的)が追加され、正確なキャレット移動やネイティブジェスチャー、システムコンテキストメニュー(オートフィル・翻訳・検索)がサポートされた。バージョン1.8.0から導入されていた並行レンダリングがデフォルトで有効化され、レンダリングタスクが専用スレッドにオフロードされるようになっている。非AndroidプラットフォームへのCompose UI テスト v2 API対応も追加され、StandardTestDispatcherがデフォルトディスパッチャーとなりテストの予測可能性が向上した。Web向けはスクロール性能が大幅に改善された。なお、Webプラットフォームは2025年9月にBetaステータスへ到達済みで、本基調講演でもこの節目が改めて言及された。Kotlin Multiplatformは採用が急速に拡大しており、PayPal・Booking.com・Sony・Duolingoなど大企業が本番環境で運用している。またSwift ExportがAlphaに昇格し、iOS開発体験のさらなる向上が見込まれる。
今後の展望
バックエンド向けにはKotlin 2.4から標準ライブラリへの18ヶ月セキュリティサポートポリシーが導入され、ORMフレームワークExposed 1.0ではベクトル型とGradleプラグインが安定化される。Androidではプロフェッショナル開発者の92%がKotlinを採用しており、K2コンパイラの安定化後に採用がさらに加速した。Kotlin Symbol Processingで実行時間が17%短縮されたことも報告されている。マルチプラットフォームライブラリのハブklibs.ioには3,500以上のライブラリが登録されており、エコシステムの充実度も増している。JetBrainsは言語・ツールチェーン・AIエージェント・マルチプラットフォームを軸に、バックエンド・モバイル・Web・AIの各領域での統一開発基盤としてKotlinの役割拡大を目指している。