概要
サムスン電子は2026年5月21日に予定されていた18日間のストライキに先立ち、6日前から半導体製造ラインの生産縮小に着手した。労働組合員43,000人以上がストライキに署名しており、これはサムスン半導体部門の全労働力の半数以上にあたる。同社は「緊急管理モード」を宣言し、新規ウェーハの投入を削減するとともに設備をスタンバイ状態に切り替えた。半導体産業史上最大規模とされるこのストライキは、グローバルなAIインフラを支えるHBM(高帯域幅メモリ)の主要サプライヤーに深刻な打撃を与えるリスクを孕んでいる。
労使交渉の経緯と要求内容
組合側の主な要求は、営業利益の15%をボーナスとして配分すること、ボーナスの50%給与上限の撤廃、および7%の賃上げである。一方、経営側は2026年の一回限りの支払いとして営業利益の約13%を提示するにとどまり、恒久的な制度改革には応じていない。
この労使対立の背景には、競合他社との待遇格差がある。SK Hynixは年間営業利益の10%を従業員に配分することに合意しており、従業員1人あたり平均46万〜47万7,000ドルに相当する配分を実現している。過去4ヶ月間でサムスンからSK Hynixへ約200人の従業員が転職したという事実は、人材流出への危機感を一層高めている。なお、直近4月に行われた1日限定のストライキでは、ファウンドリ出力が58%低下、メモリ製造が18%低下という深刻な影響が記録されており、今回の長期ストライキへの警戒感は非常に強い。
供給チェーンへの影響試算
市場調査会社TrendForceの予測によると、今回のストライキはグローバルDRAM供給の3〜4%、NAND供給の2〜3%に影響を及ぼす可能性がある。サムスンは世界DRAM生産の約3分の1を占めており、AI向けの高性能HBMの主要供給源でもあるため、データセンターや大規模言語モデルのインフラを手がける企業にとっては調達リスクが直撃する形となる。
財務的な損失規模も膨大で、製造ラインが完全停止した場合の1日当たりの損失は約20億ドルに達するとされ、18日間のストライキ全体では170億〜280億ドルの損失が見込まれる(JPMorganは労務コストおよび生産停止の長期化を加味して最大43兆ウォン=約280億ドルと試算、業界推計では30兆〜100兆ウォンに達する可能性も指摘されている)。さらにKB Securitiesのアナリスト金東源氏は、ストライキ終了後の生産ライン再起動に2〜3週間を要すると分析しており、事前の縮小期間と合わせると実質的な減産期間は6週間を超える可能性を指摘している。
今後の見通し
SK Hynixに一度DRAM首位を奪われた後、サムスンが市場を取り戻したばかりのタイミングでのストライキは、サムスンの回復軌道に大きな打撃を与えかねない。AIブームを背景にHBM需要が急拡大する中、供給の遅延や代替調達を余儀なくされる顧客がSK HynixやMicronへシフトする動きが加速するとも懸念される。労使交渉が妥結に至るかどうか、また生産の回復にどれほどの時間がかかるかが、今後の半導体市場全体の動向を左右する重要な焦点となっている。